【HOTEL CULTIA太宰府でリノベを“体感”する】古民家ホテルから学ぶ“建築を受け継ぐ”ということ「株式会社アポロ計画　リノベエステイト」

2021年04月21日 公開

福岡リノベ業界の巨匠・松山真介氏がチーフの福田正一郎さんを訪ね、
古民家再生に対する想いや取り組みについてうかがった。

マイクロツーリズムが注目を集めている今、プライベートで『HOTEL CULTIA太宰府』を訪れたという松山真介氏は言う。古民家ならではの良さをそのまま残したその姿に感動したのだとか。出迎えてくれたのは、チーフの福田正一郎氏。「弊社（バリューマネジメント株式会社）は日本各地で数々の分散型古民家ホテルを手がけているのですが、一貫して、“オーナー様の想いに寄り添う”ことを大切にしています。歴史的建造物を後世に残していくことが第一。最低限の修繕しか行っていないんです」。場所によっては隙間風や床の軋みなどが感じられるが、それも「日本人の丁寧な暮らしぶりがここに現れている」と松山氏は言う。

例えば、床の軋み。これは、かつての住人だった絵師・吉嗣梅仙が、静寂の中に響くこの“軋み音”をも楽しみたいという思いから、このような設計にしているのだとか。「ここに来ると日本人として魂からリセットされるような感覚になる」と松山氏が言うのもうなずける。

窓からのぞく景色がゆらゆらと波打つように見える「大正ガラス」や、ちょうど目線の高さから景色が見える「雪見障子」など、昔ながらの姿が残されたレストラン。シンプルな現代の家具や照明が調和している

左／昔からその場所に存在していたかのように感じさせる床。経年変化しやすい素材を使用することで、古民家とマッチさせた。右／ほとんど手を付けていない長い廊下

暮らすように泊まるということを、ひとつのコンセプトとして掲げている『HOTEL CULTIA太宰府』。太宰府の街全体をホテルとして見立て、あえてホテル内には土産物売り場や、コンビニのような売店を設けていない。「九州のブランド食材を中心に使った朝食や夕食を楽しんだ後は、ぜひ、外に出かけていただいて、お買い物や大宰府の食を楽しんでいただければと思っています」と福田氏。

実際に滞在したという松山氏も、街に出て太宰府ならではの夜を楽しんだのだという。「建物を私物化せず、街を私物化する。そうすることで、逆に街からも開いてもらえているんだと思います。江戸時代から活躍していた絵師が丁寧に暮らした形跡が残るこの邸宅を、ぜひ皆さんに体感してもらいたい、心からそう思います。テレビや時計、明るい照明がない、この演出も本当に素晴らしいですよね。非日常を味わえました」と松山氏。建物を私物化しないということ——— これは今後の古民家リノベーションの一つのキーワードになるのかもしれない。

ホテル内では“非日常”を味わえるよう、さりげなく置かれている装飾品や、家電製品にもこだわっている。エアコンは白だと目立ってしまうので、黒をセレクト。九州の作家さんを中心にそろえた装飾品も、古民家にスッと馴染んでいる。「お客様に、“博物館みたいですね”といわれます」と福田さん

左／小屋を取り壊して増築されたと思われる形跡。「大工さんが壁をはがしたら、こんな形跡が現れました。面白いので、あえてそのまま残そうということになりました」と福田さん。「土壁の風合いが、まるで過去の職人と対話しているよう」と松山さん。
右上／もともと畳の下の土台として使われていたという数字が描かれた板は、壁に貼り付けて活用されている
右下／一部塗り替えられた塗り壁。手を加えた場所がほとんどわからない

リノベーションをする際、ほとんどの人が「なるべく新しい物件を購入し、新築のように見せたい」そう考える。だけども、新たな価値観として松山氏が提案するのは“リノベーションをゴールとして捉えるのではなく、人生をより豊かに充実させる手段として考える”ということ。「僕たちの仕事は、施主様のご要望にお応えするということはもちろん、こういう古民家を後世に残していくということも、重要なミッションだと考えているんです。例えば、広い古民家を購入した時に、半分を民泊として活用してみてはどうでしょうか？日本各地にはたくさんの素晴らしい古民家が存在します。それを自分たちだけのものにしておくのはもったいない。だったら、建物を私物化せず、開けた場所にするというのも一つの手だと思うんです」。

『HOTEL CULTIA太宰府』では、一組限定で、蔵に泊まることができる。「蔵は本来宝物を仕舞う場所。だからこそ、温度が一定に保たれるようになっており環境的にはすごくいい場所なんです」と松山さん。中は、蔵の趣を感じられる、和モダンな雰囲気にリノベされている

“田舎暮らし”や“副業”など、これまでとは違う様々なキーワードが飛び交うようになった昨今。これからの暮らし、人生を、リノベーションからスタートさせてみてはどうだろうか。