建築家と料理人が考える「これから」の飲食空間【タムタムデザイン×OHNO】
北九州を拠点に活躍する建築家・田村さんとパンデミックを機に移転オープンを決意したレストラン『OHNO』のオーナーシェフ・大野さん。ふたりの感性が響き合って生まれた新店舗で、それぞれが空間に込めた思いを語り合ってもらった。
左/OHNOオーナーシェフ 大野政文さん
右/株式会社タムタムデザイン 代表取締役 田村晟一朗さん
小倉城のお膝元・小倉北区京町に誕生した『OHNO』は、オーナーシェフ・大野さんの依頼で、建築家・田村さんが設計したフレンチレストラン。2人の出会いは数年前。田村さんのつくる空間に魅せられた大野さんのお店に、田村さんが食事をしに来たのがはじまり。それ以来、月一ペースで訪れる常連客になる。一方で移転の計画はその前からあった。理由は、前店舗の空間と自身の料理の「性格」が合わなくなってきたため。大野さんが感じていた違和感を、田村さんも察知していた。そんな折に起こったパンデミックによって、じっくり考える時間ができた大野さんは「移転のタイミングだ」と田村さんに相談を持ち掛けた。
新店舗に選んだ物件は、以前から目星をつけていた築80年の古民家。昔ながらの長屋が続く通りの趣も決め手の一つになった。門扉から溢れる灯りに誘われて店内を覗くと、一際目を引くのは、樹齢500年の桜の木のカウンター。虎杢模様の一枚板が、器や料理を優しく引き立てる。和洋が調和した町屋風の空間は、大野さんの料理の本質を見抜き、田村さんが導き出した最適解。「古い建物でも命を吹き込めば、新たな価値を生み出せるという田村さんの考え方が好きなんです。フレンチもまた、扱いにくい素材をソースでも美味しく食べられるよう工夫してきた歴史があり、料理も建築も“素材”の活かし方次第なんですよね」。
厨房までスッと見渡せる奥行きのある店内に設けたのは、8~10席のカウンター席。ソーシャルディスタンスに配慮し、当面は貸切で営業する予定だ。プレオープンに来てくれた常連さんも「ゆったりできる」と喜び、久々に味わう大野さんの料理を楽しんだ。移転を機に自分たちにとって「本当に大切なもの」を何かを考えた大野さんは、新店舗では『看板を出さずに営業する』ことを決めた。「スマホひとつでなんでも調べられる時代に、調べようがない店があってもいいと思うんです。食べることが好きな方なら、看板がなくともきっと見つけてくれるはず。生意気なようですが、出会うべくして出会えたお客様を大切にしたいんです」。大野さんの新たな挑戦を知り「嬉しかった」という田村さんは「中身を磨き上げていればお客さんは自ずと来てくれる。僕もそう信じて仕事をしています」と笑顔で語ってくれた。
DATA
株式会社タムタムデザイン
[所]北九州市小倉北区京町1-4-11 3階
[☏]093-967-3115
OHNO
[所]北九州市小倉北区京町1-2-14
[☏]080-9406-5766
[HP]https://restaurant-ohno.net/
※この記事は「フクオカリノベNo.6」より抜粋して記載しております