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シティ情報ふくおか初のウェブ小説連載 三崎亜記氏作「博多さっぱそうらん記」第十三話

第四話 博多駅沈没!

何も無かった公園に、突如として建物が出現していた。煉瓦造りの、重厚な建築物だ。
「なんか、これは……」
ハンの者だけではなく、カタハネたちもまた、目の前のものが理解できずにいる。アールを描いた窓が並び、小さな緑の板を葺いた屋根も立派だ。何かに似ている……。そうだ。門司港レトロ地区に遊びに行った時に利用した、古い姿のまま残っている門司港駅に似ているんだ。
「これは……、昔ここにあった博多驛じゃないか?」
博がつぶやいて、そんなはずはないというように首を振った。新しい博多駅ができて、この場所にあった昔の博多驛は取り壊され、姿を消したはずなのに……。
――博多部封鎖で集まった大量の怨念ば使って、昔の博多驛ばよみがえらせたとたい――
傘鉾の中から、マイヅル様の声が伝わってきた。確かに目の前の建物は、怨念の底冷えするような青白い光で輝いていた。
「な、何が起きると?」
かなめの問いに、カタハネたちが胸を張る。にわかのお面の上からでもわかる、喜色満面の表情だ。
「決まっとるたい! 驛長は、明治の頃からの悲願やった、『博多市』ば実現するために、今まで怨念ば集めてきたとぞ!」
「今からいよいよ、この地ば博多市に変えてくれるとたい」
「そんために、アタシらは頑張ってきたとやけんな」
カタハネたちが、口々に叫んだ。
「見らんか、驛長のおいでなさったばい!」
怨念の瘴気が渦巻く中から、一人の人物の姿が浮かび上がった。驛長だ。
「カタハネたちよ……」
期待を込めたカタハネたちのまなざしが、お面越しにもわかった。
だが驛長は、今まで配下に従え、その働きをねぎらっていたカタハネたちを、冷ややかに見下ろした。
「まったく、お前たちが愚図でのろまなせいで、怨念を充分に集めるまでに、長い時間がかかってしまったではないか」
「驛長、そげな……」
カタハネたちは、愕然とした表情だ。ピンと張っていた背中の羽が、見る間に垂れ下がってゆく。
「まあいい。これでようやく、準備が整った。いよいよ、憎き、博多駅を名乗る不届き者を成敗することができる」
「な、何ば言いよるとですか?」
カタハネたちが詰め寄ろうとするが、透明な壁にぶつかって、阻まれてしまう。
「もう、お前たちに用はない。ハンの者たちと共に、そこで指をくわえて見ているがいい」
驛長はそう言い捨てると、驛舎の中へと消えてしまった。
「これは……。さっきまで博多部を覆っていた封鎖と同じみたいだな。怨念が分厚いバリアーになっているんだ」
博が「透明な壁」に手をあてて分析する。
「博君、なんとかせんと、博多駅が!」
「そりゃそうだけど……。今の博多駅を成敗するって、驛長は、いったい何をするつもりなんだ?」
博の疑問に、カタハネもハンの者も、答えることはできなかった。
「見て! 驛の上!」
驛の上空へ、怨念の光の束が一本の柱となって立ち昇り、一直線に南東の方角へと向かった。誘導ミサイルの動きを見るようだ。
「あれは、今の博多駅のほうばい!」
途端に、地震のような揺れが襲った。何が起こったのかと、見通しのいい大博通りに出て、その理由がわかった。
「博多駅が、沈みよる!」
巨大な駅ビルが、まるでタイタニック号のように、ゆっくりと地下に沈み込もうとしている。
「こりゃあ、おおごとばい!」
慌てて旧博多驛に舞い戻った。出現した驛が力を及ぼしていることは間違いない。元凶を叩くしか、博多駅を救う方法はなかった。石や材木を手にして、透明な壁を破ろうとしたが、壁はすべての攻撃を跳ね返した。
「こりゃ、やおいかん! 近づくこつができんばい!」
ハンの者どころか、カタハネたちすら寄せ付けようとしない。封鎖の範囲が狭まったことで、壁も数倍分厚いようだ。しかも、封鎖の中では、博多市の怨念が渦巻いている。怨念の力によって、旧博多驛は鉄壁の要塞へと姿を変えていた。
「驛長は、博多市の怨念ば集めて、博多市ば実現するって言いよったとに……」
カタハネたちはようやく、驛長にいいように利用されていたことがわかったようだ。
「お前たちが、驛長やらに騙されて、博多市の怨念ば山んごと集めたけん、こげなことになったとやろうが!」
ハンの者たちが、カタハネたちに詰め寄った。
「なんば言いよるか! アタシらは、博多ば良くするためにやりよったとぞ。それば、お前たちが邪魔ばっかりするけん、こっちも驛長の力に頼らざるを得んかったとたい!」
互いに責任をなすりつけあって、罵りだす。
「なんてや!」
「なんてか!」
互いの羽を激しく震わせて威嚇しあう。一触即発だ。
「ちょっとあんたたち! 喧嘩ばしよる場合じゃなかよ!」
罵声が飛び交って、かなめの仲裁の声など、誰も聞いちゃいない。
「もう、しろしかぁー!」
思わず古い博多弁で溜め息をつくと、博がかなめの手を握った。
「カタハネもハンの者も、元々はマイヅル様の配下にいたんだ。マイヅル様の力を借りて、もう一回、言ってみてくれ」
つないだ手から、マイヅル様の力が湧き上がってくる。かなめは深呼吸してから、声を絞り出した。
「あんたたち、いい加減にせんねーっ!」
博多の女らしい啖呵で一喝した。カタハネとハンの者は、硬直したように羽の動きを止め、立ち尽くした。
「今は博多がひっちゃんがっちゃんになるかもしれん瀬戸際におるとよ! 誰が悪かとか、どげんでんよかけん、協力して博多駅ば沈没から守らんね!」
カタハネとハンの者は、決まり悪げに互いに向き合った。
「……かなめさんの、言う通りたい」
「アタシらが、いがみ合っとる段じゃなかごたるな」
カタハネとハンの者が頷き合う。そうして、一人のカタハネの隣に、一人のハンの者が寄り添うように立った。まるで最初から、一組の「ペア」が決まっているかのように。
すべてのカタハネとハンの者が「対」になって立ったその時、離れた場所に立っていた傘鉾が、クルクルと回りだした。傘から垂れ下がった布垂れが遠心力でふわりと広がり、中から光が漏れ出す。怨念の心を凍らせるような光とは正反対の、心が浄化されるような輝きだった。
「争っとる場合ではなかぞ、カタハネ、ハンの者……。いや、フクハクたちよ」
「フクハク」と呼びかけられて、カタハネとハンの者は、雷にでも打たれたように、その身を痙攣させた。
「フクハク……? フクハク……。そうか、アタシらは……」
空中で静止した傘鉾の下に、ホログラムの投影映像のような実体を持たない存在が出現した。
「お前たちが一堂に会して、ようやっと、姿ば現すこつができた。お前たち、私ば見忘れたとか?」
今まで「声」だけでしか接してこなかった人物の姿が、あからさまになった。少し小柄ではあるが、がっしりとした体形。ぎょろりとした目と、への字の大きな口が意志の強さと頑迷さを物語るが、その上の眉尻が下がった形で固定された眉のせいで、常に「困り顔」に見えて、威厳があるんだかないんだかわからない風貌だ。
そしてその胸には、九年前の住吉神社の歩射祭で放たれた「逆矢」が、深々と刺さったままだった。
「おお、あなたは……! マイヅル様!」
その姿に、まるで呪縛が解けたかのように、記憶がよみがえったようだ。カタハネとハンの者は、かつては「フクハク」として、マイヅル様を支えていたのだ。
「マイヅル様、長い間、どこに消えとらっしゃったとですか?」
復活したマイヅル様が、かなめにしたように、自分が姿を消した理由を語った。
「驛長が、歩射祭でそげなことば……。そげんまでして博多市の怨念ば集めて、驛長はいったい何ばしようとしよるとですか?」
マイヅル様は、への字の唇をさらに押し曲げるようにして、怨念が作り上げた驛を見上げた。
「驛長は、どんたく博多部封鎖によって蓄積された怨念ば、一気に博多駅に向けて、駅ば壊滅させるつもりたい。あの怨念の量は、四年前の駅前陥没の時の十倍はあるばい。あれば一気に向けられたら、博多駅どころか、駅周辺の繁華街一帯が壊滅してしまうばい」
マイヅル様が、恐ろしい事実を告げた。
「だけど、いくらこの博多の裏の羽片世界で博多駅が沈没させられようが、現実世界の博多駅にも博多の街にも、影響は及ばないんじゃないんですか?」
確認する博に、マイヅル様は首を振った。
「四年前の陥没事故と同じたい。夜明けまでにこの異変ば収束させんやったら、博多駅沈没は現実のものになってしまうばい」

事態を収束させなければ、羽片世界を閉じることができず、現実世界につながってしまうのだという。
「ばってん、マイヅル様が復活したとやったら、もう大丈夫とでしょう?」
浮き立つカタハネとハンの者を、マイヅル様が叱責する。
「安心しとる場合ではなかぞ。この逆矢が刺さっとる限り、私の力はまだ不充分たい」
マイヅル様が戒める。マイヅル様は半透明の頼りない姿のままで、まだ「実体」を取り戻してはいない。
「あの結界ば破って、受けた矢ば、逆矢ば向けた本人である驛長に戻さん限り、私は本当の力ば取り戻すことはでけんとたい」
「どげんしたら、怨念の結界ば破れるとですか?」
「それが……わからんとたい」
マイヅル様は眉尻をいっそう下げて、困り顔で首を振るばかりだ。
博多部の封鎖は、ハンの者たちと封鎖の内と外で協力し合うことで、突破することができた。だけど今度は、内側に協力者はいないし、壁は数倍分厚い。
「博君、何かアイデアば出さんね!」
「そ……そんなこと急に言われてもなぁ……。ひらめきはいつも、かなめの方だろう?」
驛に近づくことができないまま、二人は鉄壁の要塞と化した博多驛の周囲を歩き回った。ホーム側に回ってみる。
「博君、あれ……」
ホームもまた、昔の博多驛を再現しているのだろう。だが、一カ所だけ、おかしな雰囲気の場所があった。
「あそこに、怨念が集まっとるよ!」
「あれは、ホームの柱じゃないか」
確かに、三本の柱だけが存在せず、それを補うように、怨念の光がひときわ強く渦巻いて、ホームの屋根を支えていた。
「柱が足りないのを、怨念の力で補足しているみたいだな」
「あれって、博多駅ビルの屋上にある、三本の柱ってことやか?」
その三本の柱だけは、現実世界に「実体」があるだけに、怨念が「柱」の姿を再現できずにいるのだろう。だとしたら……。
「あの、駅ビル屋上の三本の柱をここに持ってくれば、驛と柱が互いに引き合って、封鎖を破ることができるかもしれないな」
「それじゃあ、どげんかして、駅ビルの屋上に向かわんと!」
カタハネとハンの者と共に、博多駅に向かった。だが、駅ビルに近づくことはできなかった。博多駅の周囲は、ぐずぐずと大地が崩れて泥濘の海と化し、駅ビルはゆっくりと沈み込もうとしていたのだ。「海」では、怨念の光が邪悪に揺らめいている。
「これじゃあ、駅に近づけんよ!」
「ボートか何か、水に浮かんで渡るものが必要だな」
「でも、水の中には怨念が渦まいとるとよ。すぐに転覆させられてしまうっちゃない?」
かなめは、足下に広がる穴に、思わず立ちすくんだ。四年前のあの日、あと一歩の所で、陥没の犠牲になりかけた恐怖がよみがえったのだ。
その時、かなめの手は、しっかりと温かなものに包まれていた。
「博君……」
博は照れ隠しのようにそっぽを向いた。その温かさの先に、二人を呼ぶ存在を感じた。すぐ近くにいる。それは……。
「福岡大仏さん、助けてくれると?」
「福岡大仏だけど、それだけじゃない。誰か一緒にいるぞ?」
気配を探る博が首をひねる。確かに、「玉せせり」騒動で感じた福岡大仏の気配に寄り添うように、「誰か」がいる。
半透明のマイヅル様に導かれ、福岡大仏がゆっくりと近づいてきた。
「博多大仏さんも、協力するげなたい」
福岡大仏に、戦時中の金属供出で姿を消した博多大仏の魂が乗り移っているようだ。
「博多大仏が? でも、なして?」
「福岡大仏さんは、博多大仏さんと相撲ばとった縁で、志半ばで体ば奪われた博多大仏さんの願いば引き継ぐことにしたとたい。博多の街に平和と繁栄ば願う心ば引き継いで、私たちの助けになってくれるげなたい」
福岡大仏は、穏やかな表情でかなめたちを見下ろすと、駅ビルを呑み込む泥濘の中に足を踏み出した。
「もしかして、博多駅まで渡してくれるとですか?」
福岡大仏は木造大仏だ。確かに、水には浮きやすいだろう。
「大仏さんの本当の力ば使えば、この騒動も指先一本やろうたい。ばってん、ここは私たちの力で乗り越えにゃいかん。大仏さんは、手助けばするだけたい」
カタハネとハンの者と共に、福岡大仏の背中に乗って、泥濘の「海」を渡る。さすがの怨念も、博多大仏の魂も共にした大仏には、手出しができないようだ。
駅ビルは三階まではすでに泥濘の中に沈み込み、かなめたちは、四階の窓にしがみついた。傾いた駅ビルの中を、階段を使って駆け上る。屋上に置かれた旧博多驛のホームの柱は、支えるものを失った中途半端な姿のままだ。
カタハネとハンの者たちが、柱の固定を外す。横倒しにした柱の右側にカタハネが、左側にハンの者が、それぞれ五体ずつ立ち、柱を肩に担いだ。そうして、それぞれの羽をゆっくりと動かし始めた。
「アタシらが、旧博多驛まで飛んで、柱ば驛に戻すたい」
そう言って、羽を激しく動かしだす。
夜空に舞い上がったものの、空を飛ぶ勘が鈍っているのか、数メートル飛び上がっては、落下してくるを繰り返した。
「早よせんね! あんたたちに、博多の未来がかかっとるとよ!」
かなめが叱咤すると、カタハネとハンの者たちは苦笑して顔を見合わせあう。
「かなめさんの言う通りたい。気合いば入れんと」
そう言って、ひときわ強く、羽を揺らした。少しずつ、羽ばたきは力強く、そして習熟したものになった。
「よし、柱ば運ぶばい」
カタハネとハンの者に抱えられ、柱はゆっくりと持ち上がった。
「このまま、博多驛まで運べるやか?」
「カタハネとハンの者を、信じるしかないな」
柱が夜空へと舞い上がった。祈るような気持ちで、かなめは博と共に見守り続けた。
「あっ! 危ない!」
思わずかなめは叫んだ。駅ビル上空に暗く湧き上がった黒雲から、突然、雷が夜空を貫いた。雷は、ジグザグに光を落としながら、柱を持ち上げるフクハクたちを襲う。
「あの雷、狙い撃ちしているぞ!」
旧博多驛方向に向かおうとすると、それを見計らったように、雷がすぐ横をかすめる。とても、飛ぶどころではなかった。カタハネとハンの者たちは、一旦運ぶのを中断し、柱と共に屋上に戻ってきた。
「この雷は、怨念の力だけじゃないのか?」
博は、空を見透かすように見上げた。分厚い群雲の上で、誰かが、驛長の悪だくみに助太刀しているのだろうか。
「雷……、悪だくみ……。そうたい! 博君。風神雷神!」
「えっ、いきなり何を言い出すんだ?」
「前に教えてくれたやんね。お櫛田さんの風神雷神のことば」
「ああ、櫛田神社の拝殿破風に彫られた風神雷神は、他とは一風変わっていて、雷神が博多の街に騒動を起こそうと誘っているんだけど、風神はアッカンベーをして、それを拒んで……」
「その風神雷神たい!」
そう言われて、博もはっとしたように、空の雷を見上げた。
「どんたくの前に、お櫛田さんにお詣りにいったら、雷神様が姿ば消しとったと。修理で外されたとかと思いよったとやけど……」
「そうか! 博多に騒動を起こそうとしていた雷神が、驛長の甘言につられて、悪だくみに加担しているってことか」
「それやったら、雷神様にアッカンベーしよった風神様やったら、何とかしてくれるとやない?」
「そうか、行こう、櫛田神社に!」
博と二人で駅ビルの階段を駆け下り、再び、福岡大仏の助けを借りて、泥の海を渡った。櫛田神社に向けてひた走る。
「見て、博君! やっぱり雷神様がおらんよ」
拝殿の雷神は姿を消したままだ。雷神にアッカンベーをしていた風神は、相手を失い、悔やむような表情で空を見上げていた。
「風神様、助けてくれんね!」
風神は答えようとしない。いつのまにか、横にマイヅル様が立っていた。
「雷神の力ば封じたら、風神が力ば貸さっしゃるげなたい」
「あげん空の上におる雷神様ば、どげんして力ば封じろっていうと?」
空を飛べるカタハネとハンの者たちさえ太刀打ちできないのだ。かなめと博に、手出しができるはずもなかった。
「雷神の元締めと言ったら、道真公なんだけどな……」
博が空を見上げてつぶやく。
「菅原道真公やったら、雷神様ば抑えられると?」
「道真公が左遷されて失意のまま太宰府で亡くなった後、都は度重なる雷に襲われたんだ。天に昇って雷神となった道真公の魂を鎮めるために、全国に天満宮が建立されたんだよ。お年寄りが、雷が落ちたら、くわばらくわばらって言うのは、道真公の所領だった桑原だけは雷が落ちなかったって言い伝えがあるからだよ」
「マイヅル様、それやったら、道真公にお願いできんと?」
「私に力が戻っとれば、道真公の魂ば呼び出すこともできろうばってん……」
マイヅル様は力なくつぶやいて、空を仰いだ。
「博君、何か考えとる?」
博は頭の中の博多知識を総動員させている。
「道真公、道真公……。博多は、都から左遷された道真公が船で降り立った地だけに、道真公ゆかりの地がたくさんあるんだよな。天神の町の名前の由来になった水鏡天満宮は、川の水に自分の姿を映したってだけだし、博多部側の鏡天満宮は、やつれた姿を鏡に映した場所だし、あとは……」
博のつぶやきを聞いて、かなめはひらめいた。
「博君、鏡天満宮って、今も鏡が祀られとると?」
「さすがに道真公本人が使った鏡じゃないが、江戸時代に奉納された鏡が祀られてるって話だよ。それがどうしたんだよ?」
「さっきのどんたく騒動で、博多大仏ば動かすために、鏡の光ばあてよったろう? 道真公の力のこもった鏡天満宮の鏡の光ばあてたら、雷神様の力ば封じることができるっちゃない?」
「どうだろう……?」
博は、判断に迷うように首をかしげる。
「いや、そのやり方しかなかばい。道真公も、雷神の騒動には怒っとらっしゃるはずやけんな」
「マイヅル様がそげん言うなら、やってんもう! 博君、鏡天満宮に行くばい!」
「わかった!」

続きはこちらから→第十四話

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「博多さっぱそうらん記」とは

福岡県出身で現在も福岡に在住する作家、三崎亜記氏による新作SF小説。

1890 年の「福岡市の名前を巡る騒動」と2016 年に起きた「博多駅前道路陥没事故」から着想を得て、「博多を名付ける勢力が勝っていた世界」=「羽片世界」がもし福岡市にあったとしたら、その勢力が現実の福岡をも転覆しようとしているために陥没事故が起こったとしたら、という物語を紡ぎだしました。仮想の「羽片世界」の面白さはもちろんですが、「せいもん払い」「どんたく」「玉せせり」など福岡独自の風習も物語の骨子に組み込まれて入るため、ご当地小説としても楽しんでいただける作品です。

 

著者について

三崎亜記(みさき・あき)
福岡県生まれ。熊本大学文学部史学科卒業。

2004 年に『となり町戦争』で第17 回小説すばる新人賞を受賞しデビュー。デビュー作と『失われた町』『鼓笛隊の襲来』で直木賞の候補となる。そのほかの作品に「コロヨシ!!」シリーズ、『バスジャック』『廃墟建築士』などがある。

 

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