【インタビュー】PUSHIM「デビューから20年。未熟と成熟の両方を表現できる “immature” は、今の私にぴったりな言葉」
取材・文/本田珠里
撮影/山辺学
デビューから20年間、日本のレゲエ界を牽引し続けてきたクイーン・オブ・レゲエ、PUSHIM。その歌声はどこまでも力強く愛に溢れ、多くの人々を魅了してきた。今年はアニバーサリーイヤーということで3年振りとなるアルバム『immature』をリリース、そして盟友HOME GROWNとのツアーも決定と、さらにパワフルな姿を見せてくれそうだ。
— デビュー20周年、おめでとうございます!
ありがとうございます!
— 20周年のアルバムのタイトルが『immature』。“未熟”という意味を持つ言葉ですが。
メジャーデビューして20年目、スペシャルな一年ということで改めてこれまでを振り返ったとき率直に、思っていたより成長してないし、もっとやりたいこともある、音楽的にもまだまだ可能性を追求したい…って、本当に全然まだ道半ばだなと感じて『immature』にしたんです。でもね、途中で点を付けると「I’m mature=成熟している」って意味になって、未熟と成熟の両方の意味が示せるんです。年齢的には成熟の時期でもあるんですが、精神的にはまだまだお子ちゃまで音楽に対する気持ちやウキウキ感はいつの頃からか止まっている状態。私はそれを子どもと大人の間で「こどな」って呼んでるんですけど(笑)、ある意味ピーターパン症候群ですよね。なので、私にはぴったりの言葉かなと思って。
— 20周年目のアルバムということで、何か特別な思いやイメージはあったんでしょうか。
3年前のアルバム『F』が私の中で落ち着いた大人っぽいアルバムで、作り終えた時に次はもっとフロア向けのリズミカルなものをと思ってました。いつもこれやったら違うこと、それやったらまた全然違うこと…、それはアルバムの中の1曲単位でもそうなんですが歌詞を書く時も、ゆったりの次はビートの効いたものっていう方が私的には飽きないし、いい流れになる。なので今回はフロア向けと決めてました。
— “ザ・レゲエ”というよりもレゲエビートの中に『DiDistance』のような自然に身体がリズムを刻んでしまうメロウでアーバンな楽曲が多いなと感じました。
『immature』とか言いつつ年齢は重ねているので(笑)フロア向けと言っても無理する感じは私も望んではいなくて。今回は生音と打ち込み半々くらいの割合なんですが、ビートが強めの曲も今の自然な私から出たものばかりです。若い子にももっと聴いてもらいたいなと思って、今回『DiDistance』のPVに私はあんまり出ていません(笑)。私がプロデュースしているアパレルブランド『Tome2H(トミトエイチ)』のモデルも演ってくれているダンサーのNADiAと、世界で活躍しているレゲエセレクターのOGA君を中心に素晴らしいパフォーマーに出演してもらってます。
— アルバムの最後に収録されている『In my village』は、歌詞をみているとPUSHIMさん自身を表現しているのかなと。強さと弱さ、両方の内面を見れた気がしました。
うん、確かにこれはそうですね。めちゃくちゃ個人的な曲です。20年以上歌っていてもライヴ前はすごく緊張してるし失敗もたくさんある、スランプをどうやったら脱出できるんだろうって考える時期も長くて、やっとここ数年で少しずつわかってきた気がするくらいなんです。この歌に答えが書いてあるんですけど、結局人の前で素直になるってことですよね。その気持ちを歌詞にした曲です。去年の夏、ツアーやフェス…それこそサンセットライブに出演させてもらいましたが、ちょうどその頃、ライヴが終わってアドレナリンが出て興奮が続いた時に書きました。この曲はもう頭の中でメロディと歌詞が全部出来上がっていて、盟友でもあるHOME GROWNにアレンジしてもらったんです。
— ‘01年のサンセットライブに初出演されたときから拝見していますが、いつも堂々たるステージングなので緊張すると聞いて意外だし驚いています。
めちゃくちゃ緊張しますよ〜!スランプは波があるというわけではなくデビューしてからすぐにスランプに入ってしまって長かったんです。良い時と悪い時がすごい激しくて精神的に安定してないというか。でも、ここ数年でやっと抜けてきた感じはします。
— その間も、レゲエ界はもちろんシンガーとしても唯一無二の存在なので嫌でも常に注目は浴びてきたと思うんですが、辛かったんじゃないですか。
歌を作るのは得意だし平気やったんですけど、実はライヴが辛かったんですよ。いらんことばっかり考えてしまって…自意識過剰なんでしょうね。だからメンタルの強さが欲しいと思ったし、それを手に入れるために色々もがいて、逆にガシガシやってましたね。
— レゲエに対するイメージっていわゆる一般の女性が今まで積極的に踏み込めなかったジャンルの一つだったと思うんですが、20年前デビュー曲『STRONG WOMAN』という名曲でそういう女性たちを一気に引き寄せたPUSHIMさんの登場はレゲエ界にとっても大きな革命だったなと思うんです。歌はもちろん、女性のしなやかさや強さを魅せてくれるファッションやスタイルを含めが憧れの存在というか。
やっぱり私自身も憧れだったんですよね。小学生の時にマドンナを見て「めっちゃかっこいい!」って思った、それが大きいかも。好きな音楽とクールな女性像がどこかでずっとリンクしていて、そこに憧れを持って知らず知らずに自分もそういうものになりたいという気持ちが、小さい頃からあったのかな。
— 今のPUSHIMさんがまさにそういう存在だと思います。
私ね、今年で小3になる子供がいて未婚の母なんです。おっしゃる通り、いわゆる『STRONG WOMAN』のイメージで私の歌を聴いてくださってる女性が多いと思うんですよ。でも、私は未婚の母になりたかった訳でもなく普通に結婚して子供産んで幸せな家庭をって思ってたんですけど、私の人生が“シンガー・PUSHIM”っぽくなっているというか…なんだか不思議な感じです(笑)。
— 本来のPUSHIMさんは一般的な幸せを願う女性と同じ感覚だったはずなのに…。
そう、夢見る女性だったはずなのに私のイメージにふさわしい感じの人生になってきてる(笑)。でもね、ちょっとスランプの話に戻ると、子供を産んだことはすごく大きかったです。子ども産む前は自分で限度を決められるけど、子供を出産したら人のための人生なんですよ、急に。でも私の性格上、じゃあ徹底的にやろうってなるんですよ。出産を経て体力も落ちる分を補おうとするし、歌に関してももっと一生懸命になったし。親が正義とまでは言わないですが、親の強さみたいなのがあるんですかね。その子どもの存在が人前でも素直になれるきっかけをくれた気がしますね。
—色々なものを乗り越えられる強さ、見習いたいところです。今のPUSHIMさんにとってのパワーの源はなんなのでしょう。やっぱりお子さまですか?
子どもを産んだからって“自然の中で歌う”みたいな感じにはならないでおこうとは思ってたんです(笑)。ただ産んだことで母性でブワーっと曲が作れたんですよ。『It’s A DRAMA』とか、その辺のアルバムはそう。でも今はもう小3になってきて、私自身に余裕も出てきてやんちゃな自分が戻ってきた。それが今回のアルバムになってますね。女として音楽人としてのやりたいことをやる。パワーの源としては母性からまた違う所に入ってきてる感じです。
— これからの活躍がますます楽しみです。福岡はサンセットライブの影響もあってレゲエファン層も多くて、私もその一人ですがPUSHIMさんの長年のファンも多いと思います。
本当にそうですね。サンセットライブってフェスがこんなに流行る前からあった、いわば“元祖フェス”じゃないですか。それに今でも出させてもらえるってすごく誇らしいことだしありがたいことだなと思います。実は福岡って縁があって、父がもともと福岡出身なんですよ。今回のアルバムに参加してもらってるシンガーも筑豊の出身だったり。
— そうなんですね!それは初耳でした。
あと私、サウナとか銭湯が好きなんですけど、福岡でめっちゃいいところ見つけてしまって!去年のツアーのライヴ前に1日余裕があってホテルの人のお勧めで波葉の湯に行ったんですけど居心地よすぎて、岩盤浴からマッサージ、食事までしながら5時間くらいいました。去年のサンセットの時も寄ったし、今日も行っちゃおうかなと思ってます(笑)。
— 福岡の違う楽しみが見つかりましたね(笑)。まもなく20周年のツアーも始まります。
2年振りにHOME GROWNと全国回るので、『immature』からはもちろん、みなさんが聞きたいであろうあの曲この曲は間違いなくやろうかなと思ってます!
— アニバーサリーにふさわしい内容になりそうな予感ですね。
そうですね、HOME GROWNとはずっと一緒に演ってるので、彼らのテクニックを含め息のぴったりあったところを見てもらいたいです!
ライヴ情報
日時 6月7日(金)/19:00
会場 ZEPP FUKUOKA
料金 指定席 6480円 / 親子席 10800円 (1ドリンク別途)
チケットぴあ (Pコード:143-936)/ローソンチケット (Lコード:82636)
問合せ 0570-09-2424(キョードー西日本)
リリース情報
アルバム『immature』発売中
初回限定盤(CD+DVD)/3750円
通常盤/3200円
徳間ジャパンコミュニケーションズ