【インタビュー】Fuku Spo – アビスパ福岡／井上 聖也

2023年02月27日 公開

DF　井上 聖也（背番号26）

自分を信じていたから、

夢を笑われても諦めなかった。

もう来季への戦いは始まっている。

多くの選手が移籍・加入で入れ替わる中、

チームがさらに上へ行くには若手の躍動が不可欠だ。

大卒2年目となる井上聖也は、そのカギを握る一人だ。

（取材・文／岩井咲里香）

苦しい状況下で先輩の背中から学んだこと。

３失点。堅守を掲げるチームにとって、そして守備の柱を担うCBにとって痛い数字だ。ルヴァン杯グループステージ第1節の湘南ベルマーレ戦。大卒ルーキーとして挑んだ井上聖也は、デビュー戦にして日本最高峰リーグの洗礼を受けることとなった。

「J１というカテゴリーは少しの隙で失点してしまうんだなと感じました。僕はあまり緊張しないタイプなのですが、あの試合では硬くなってしまって、自分のすべてを出し切れませんでした。僕にとって初めての公式戦でしたが、試合中にもっと修正できるところはあったと思いますし、早い時間で失点するとかなり厳しいゲームになるということを身をもって感じました」。

「個人的には苦しいシーズンだった」と今季を振り返るように、リーグ戦への出場は叶わないままシーズンを終えた。しかし、彼が1年間このクラブで感じ、学んだことは間違いなくプラスになった。

「自分のことだけを考えていたらいけないなと感じました。自分が苦しい状況でも、できることを全うしながら、チームがいい方向を向けるように行動しなきゃいけない。残留争いなどでチームも苦しい状況が続きましたが、選手・スタッフが一緒に乗り越えていくところを見られたのは大きかったです」。

この人に付いていけば、プロになれると確信した。

いわゆるエリート街道ではない道を歩んできた。プロサッカー選手になりたいという夢を笑われたこともあった。それでもこの夢を諦める選択肢はなかった。ただひたすら「サッカーが好き」だから。

３人の兄に影響を受け、物心ついた時にはサッカーボールを蹴り、小学１年生になると地元のサッカークラブに入団。様々なポジションを経験しながら、大好きなサッカーに打ち込んだ。

高校１年の時、FWとCBのポジションでプレーしていたが、当時の監督から「プロになりたいなら、CBの方が可能性がある」と言われCB一本で勝負することに。

その後、スポーツ推薦ではなく一般入試で、地元・神戸の甲南大学へ入学。当時の甲南大学サッカー部は、関西学生サッカーリーグで1部と2部を行き来するチームだった。そして、大学1回生の冬。ある監督との出会いによって、プロに「なりたい」が「なれる」に変わった。

柳川雅樹。この名前にピンと来る人もいるかもしれない。ヴィッセル神戸やヴァンフォーレ甲府といったクラブでプレーしていた元プロサッカー選手で、’07年にカナダで開催されたU-20W杯にも出場し、内田篤人や槙野智章、香川真司らとともに“調子乗り世代”と呼ばれた1人だ。現役引退後、’19年に甲南大学サッカー部の監督に就任すると、’20年には創部以来初となる全国大会出場を果たし、着実に指導者として結果を残している。柳川監督に出会って、彼の夢は現実味を帯びてきたという。

「1回生の冬に監督が変わって、この人に付いていったらプロにいけるなって直感で感じたんです。柳川監督はいろんなことをサッカーのために犠牲にしていて、プロの世界も経験されていて。どういう選手になるべきか、それ以前に人としてどういうメンタリティーを持っておくべきかを教えくれたし、しんどい時も絶対に弱気になっちゃいけないと、部員に常々伝えてくれました。それまで甲南大学は1部と2部を行き来していたんですけど、監督が来てから僕が卒業するまでに1部定着まで持っていって、1人でチームを変えられるほどの力とリーダーシップがある人だったので、この人の元なら確実にプロになれるだろうなと」。

天才じゃないから、他の人よりも考えないといけない。

「この世界は努力しても報われるわけじゃない。だからこそ、努力が報われるためにより考えないといけないし、時間は有限なので有効に使わないといけない。」

大学卒業して１年目の23歳とは思えない、しっかりした考えに驚かされる。

「高校生の頃から常に頭を使えと言われていて、当時は考えてはいたけど、よくわかっていなかった気がします。大学に入ってアルバイトも経験して、4年生になるといろいろなものがパっと見えるようになったんです」。

様々な場所をこの目で見たいと、大衆居酒屋、個人経営の居酒屋、ホテルスタッフ、高級寿司店などでアルバイトを経験した。「大衆居酒屋では、飲食店の基本とスピード、ホテルでは礼儀や作法、個人経営の居酒屋ではコミュニケーションの取り方、寿司店では高級な寿司に見合うサービス…。数々のアルバイトでの経験が蓄積されて、自分の中の考えがより確立されました」。

「プロサッカー選手になる」という夢を叶えた今、彼には新たな目標ができた。「1つ目は、W杯に出場してベスト４の一員になること。2つ目は、20年現役を続けること。そして３つ目は、恩師である柳川監督が指揮するクラブでプレーすること」。そう語る彼の目には、一片の迷いもなかった。

日本中が歓喜したカタールW杯も幕を下ろした。強豪ドイツ・スペインを倒し、新世界を見せてくれたが、またもベスト16の壁は越えられなかった。4年後、それとも８年後になるか。歴史を塗り替えた歓喜の輪の中に、日の丸を背負う井上聖也の姿を見たいものだ。

プライベートに迫るQ&A

Q．今1番ハマっていることは？

A．梅昆布茶ですね。大学時代に仲のいい社長さんが神戸のめっちゃいいバーに連れて行ってくれて、そこでお酒を飲んだら、最後の〆に梅昆布茶が出てくるんです。そこの梅昆布茶がヤバくて…！ 自分の家で作ってみたんですけど、全然違います！ しかも、この梅昆布茶はメニュー化されていないんですよ。最後の1杯としてしか出してなくて、作り方も教えてくれなくて…。そこの梅昆布茶がやっぱり1番ですが、家で作っても飲むと落ち着くので毎日飲んでいますね。

Ｑ.福岡でお気に入りの場所は？

Ａ. シーズンオフになって一人暮らしを始めたんですけど、自分の家が1番気に入っています。引っ越してまだ1カ月ほどで、家具などもやっと揃ってきたところですが、今まで寮生活で自分だけの部屋には憧れがあったので嬉しいですね。白を基調としているところと、絵と観葉植物が特にお気に入りです。