宗像市長 伊豆美沙子 インタビュー
本誌編集長が最近気になる市町村長を訪れ、本音でインタビューをしていく連載の第12弾。今回はこれからの季節、特に注目! 本誌でも人気のおでかけエリアとして度々登場する、話題のニュースやおでかけスポット満載のまち、「宗像市」におじゃましてきました。
宗像市といえば、青い空、青い海、田園風景に神秘的な山や島々といった、大自然の神々しい景色や、山海の幸のおいしさがたっぷりと味わえる名物グルメが最初に思い浮かぶという人も多いはず。平成29年7月、「『神宿る島』宗像・沖ノ島と関連遺産群」がユネスコ世界遺産に登録されてからは、ますます「神の国」として注目が高まり、今や全国屈指の一大人気観光地の仲間入りを果たした宗像市。また一方、暮らし目線でみてみると、宗像市は福岡市と北九州市のちょうど中間に位置していて、交通アクセスも便利なことから、自然環境と都市環境の両方のライフスタイルを重視する子育て世代やセカンドライフ世代の移住先としても人気が高く、注目を集めている。
今回はそんな宗像市の市長にちょうど一年前に就任したばかり、市政史上はもちろん、県内60市町村の中で唯一の女性市長である伊豆美沙子市長を直撃取材。創業300余年の老舗酒蔵で生まれ育った、正真正銘の宗像っ子の市長と、まずは宗像大社で待ち合わせして、お参りと撮影をすました後、場所を宗像市郷土文化学習交流館『海の道 むなかた館』に移して、故郷への熱い想いをたっぷりと語っていただきました。
インタビュアー:宗像市史上初、県内初の女性市長。さらには平成最後、令和最初の宗像市長になられて約1年。今の率直な心境をお聞かせください。
たまさか二つの時代をみることになったわけですが、いま感じていることは、社会や人の気持ちがものすごく早いスピードで変化している時代の中で「行政が取り残されてはいけない!」という思いを一番実感しています。「いままでこうしてきたから、こうする」というような過去を踏襲するようなやり方がこれまでは通例とされてきたわけですが、それでは社会の流れ、時代の流れに乗り遅れてしまうということなんです。
女性が政治の場に少ないということもそのひとつだと思います。それは「生活の場」と「政治の場」が離れていると女性が感じているからだと思うんです。もともと政治というものは非常に生活と一体になっているものであったはずが、そうなっていないから、政治の場に女性が少ない。本来あるべき生活者のための政治であるためには、日常の生活の大切な部分を大きく担っている女性に、政治を身近に感じてもらえるように努力して、どんどん入ってきてもらわないと、本当の意味での生活者のための政治にはなっていかないと思います。
ある意味「宗像をひとつの家庭」だと考えるとわかりやすいんです。「宗像の財布の残りはあとこれだけなので節約しましょう」とか、「宗像の財布からこちらに出費しますね」とか、家庭の財布を預かる身として、私が率先して、その使い道を考え、節約し、みなさんに相談や報告をして正しく使いながら、宗像という家庭の幸せな日々と、将来をつくっていく。そんな視点と役割が女性市長だからこそ求められているのではないかと認識しています。
もし市政が経営だったら利益につながらないダメな部分があったら排除していけばいいんですが、多様性が叫ばれる時代において、市の中にはさまざまな立場の人がいるわけですから、決してそういうわけにはいかない。だからこそ、いまの時代は、経営的な手腕ではなく、生活していくための知恵が問われ、求められていると思うんです。日本社会の男性は波風を立ててはいけないという組織の中でいきてこられた方が多いんですが、女性にはそれが通用しない。私がそうなだけかもしれませんが(笑)。「なんでこんなにお金がかかるの?」とか「どうしてこれができないのかな?」っていう感情がストレートに湧いてきますからね。
そういう意味では時代が女性の政治参加を求めているのかもしれません。
インタビュアー:多くの職業と県議会議員を経験され、市政に挑みたいと思われたきっかけはなんだったのでしょうか。
これまで何十年も育ててきてくれた宗像に、これまでの私の経験や知識で恩返しがしたいと思ったのがきっかけですね。でも市長という仕事ではまだまだ雛ちゃんですし、「これはなんでこうなの?なんでできないの?」って言いながら、規約や条例に毎回ブツかりながら頑張っているところなので、これからもそうやって頑張りながら、私なりの恩返しができていければと思います。
インタビュアー:宗像で過ごされた幼少期は、どんな子どもでしたか。
幼い頃はどちらかというと空想がちで、どこかエキセントリックな子供だったと思います(笑)。全校生徒200人弱の小さな小学校で、当時創成期だったミニバスケットをやっていました。「小さな学校だからといって大きな学校に負けることはならん。相手の何倍も努力をすればいいのだ!」というのがミニバスケットはもちろん、学校全体の教えだったので、本当によく頑張って練習しましたし、おかげで九州大会で優勝するという貴重な経験もすることができました。もともと好奇心旺盛で、なんでもやってみたいって思うタイプではあったんですが、いま思えば、その小学校時代に「何事にも挑み、努力を惜しまない」という強い精神と高い感受性を鍛えてもらったんだと思います。そのおかげで、高校時代はジャーナリスト志望で新聞部に入り、大学時代には劇団に入り、俳優の辰巳琢郎さんやたくさんの仲間たちと貴重な時間を共有させていただき、私の人生に欠かせない大切なものにたくさん出合うことができました。
中でも一番大きな体験は、平成元年に始まった第一回目の『世界青年の船』に参加して世界を半周したことです。そのとき、初めて多くの外国人たちと生活を共にしながら触れ合う経験をして、日本という国の考え方が世界ではどれだけ異端であり、逆にどれだけ個性的な文化や考え方を持っているのかということを身を以て体験し、学ぶことができました。特に南米の人たちの考え方は衝撃的でした。明日世界がどうなっているかわからないのに「生まれてきたことを、いま生きていることをなぜもっと楽しまないのか。もっと自分を褒めなさい」という考え方を教わりました。これまで本当に自由奔放にわがままな道を歩んできましたが、その出来事がいまの私の人生に一番大きく影響していると思います。
インタビュアー:市長のプロフィールの趣味欄には観劇やスポーツ観戦に並んで「マンガ」がございましたが、どんなマンガがお好きなのでしょうか。
一度だけ《シティ情報Fukuoka》に「マンガ好き」っていうことで取材されたことがあって、それくらい昔からマンガが大好きなんです。『ゴールデンカムイ』とか、いまハマっているマンガはたくさんあるんですが、イチオシは『キングダム』です! 原作者の原泰久さんは福岡で制作活動をされているので、いつかその拠点ごと、宗像にお越しいただきたいと切に願っているほど大好きです(笑)。
この日本が世界に誇れるマンガという文化はとても大切なものにますますなっていると思います。以前、県議会議員で文教委員をさせていただいたときにも「いまの子どもたちが夢中になっているマンガやアニメといった文化を知らずして、どうして子どもたちに興味関心を抱かせる教育ができようか」という意見を伝えたことがあるんです。例えばビートルズが大好きで英語に興味を持って勉強した世代があったように、『キングダム』から歴史や文化に関心を抱いて「勉強することって楽しいやん!」っていう子どもがたくさんいると思いますし、いまの教育にはそういう観点も必要なんじゃないかと。そうやって「どうやって子どもの興味関心を生み出し、その心を育てるか」っていうことが本来の教育だと思います。
インタビュアー:本誌でもマンガ好きを集めた連載をしているんですが、その考え方はどの分野においても時代にすごくフィットした方法だと思います。本誌読者には子育て世代も多いので、ぜひ市長が考える教育方針についてさらにお聞かせください。
宗像市は昔から教育に熱心なところで、特に出光興産の創始者・出光佐三さんが福岡教育大学を誘致されたことで、まちの方向性が決定づけられたと思うんです。私の信条でもあるんですが、宗像市の数ある財産の中で一番の財産は、世界遺産ではなく、その教育によって育まれた「人」に「財(たから)」と書く「人財」だと思うんです。人なくしては、暮らしていけない。そんな宗像だからこそ、その人財にまち全体で投資をしていく。これが宗像を教育のまちにしてきた風土だと思いますし、それをこれからもっと深めていきたいと考えています。
宗像市では全体予算の11%を教育に投資しています。子育て支援施設などの充実はもちろんですが、全校が自校式給食なんです。「子どもにはなるべく地元の食材をたくさん使って、作り手の顔が見える温かいものを食べさせてあげたい」。人って土がつくった最高の産物だと思うんです。だから生まれ育った土地とその人の未来は切ってもきれない関係にあると思います。もちろん学業支援も大切ですが、災害でいつ社会がどうなるかわからない、価値観がどう変化するかわからない時代に、「どんな状況でも変化を受け入れて、自分らしく生きていける」という生きる力を育てていくことが最も大事だと思うんです。家庭と同じように、まちの教育にはそんな考え方が大事なのではないでしょうか。
また子育てという観点では、宗像では「地域で子どもを守ろう」という意識がすごく強くて、地域の人がその地域の子どもをとても大切に思っています。登下校の見守りや地域行事参加、コミュニティスクールや学童保育の導入は以前から盛んに行なわれていまして、市内に12あるコミュニティが行政と一緒になって子どもを見守っていき「共育て」していこうという連携がしっかりと地域ごとに形成され機能しています。これは非常に誇れることだと思っていますし、この連携をさらに「幼老共生」という視点で強化していきたいと考えています。季節外れですが各地域の公民館や公共施設に「コタツ部屋」を作りたいって思っていて(笑)。そうしたら自然と人が集まり、交流が生まれ、みんな笑顔の「幼老共生のまち」が実現するんじゃないかって。世の中に余っているコタツを自ら集めて、たゆたうとした「むなかたタイム」を老いも若きもほっこりと楽しめる「まちの居場所」をつくりたいって、本気で思っています!
インタビュアー:市長が考えるおすすめの宗像観光の楽しみ方をお教えください。
もともと宗像という土地が持っている、たゆたうような、ゆったりとした時空間をこれからも大切にしたいし、多くの人に伝えていきたいです。たくさんの国宝があるからだけではなく、大陸との交易の歴史や、自然への感謝と信仰が産み出す、宗像の風土そのものが評価されて、世界遺産に登録されたと思うんです。クルマで名所をめぐる観光もいいですが、ぜひ『海の道 むなかた館』などを拠点にして、散策やサイクリングを楽しんでほしいですね。風を感じたり、稲穂の匂いを感じたり、宗像の日常の豊かさを満喫しながら、ぜひ「そうつき(うろうろ)」しに来ていただきたいですね。