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【福岡ラーメン物語 のぼせもん。|67杯目 ラーメン住吉亭】

「何が博多ラーメンなのか、考えたこともありません。僕が作っているのは豚骨ラーメンです」

日常に寄り添うラーメンがある喜び。子供の頃から生活の一部として、ラーメンが当たり前に存在する人生はとても幸せなことだ。そしてそんな人々の生活に欠かせないラーメンを作り続ける人の人生もまた幸せなのかもしれない。

ラーメン住吉亭

店主 松田 洋介(Yosuke Matsuda)

1985年、福岡県福岡市生まれ。学生時代より叔父と父が営む『住吉亭』を手伝う。就職で一度店を離れるが、再び店に入り基礎から学ぶ。2016年、父の急逝により三代目として兄、母と共に店を守り続ける。

 

 

毎年のように移りゆく流行の渦に巻き込まれ、新しい店や味が生まれては消えていくのがラーメンの世界。そんな中で長年にわたり愛され続けているラーメンもある。人々の生活に欠かせない、日常に寄り添うような存在のラーメン。『住吉亭』のラーメンは、そんな一杯だ。

『ラーメン』(750円)/豚頭骨と頭皮を継ぎ足しながら作るスープはマイルドな口あたり。たっぷりのネギとキクラゲのザクザクとした食感と共にスープを啜る楽しさ。半世紀近く変わることのないラーメンだ

創業の地が住吉だから『住吉亭』。その後、博多駅南の住宅街の一角に移転して30年以上になる。店主の松田洋介さんは創業者の甥にあたり、創業者から店を継いだ父が急逝したことで三代目店主となった。

「学生時代から店を手伝ってはいたのですが、店は継がなくて良いと言われていたので県外で別の仕事をしていました。その後、福岡に戻って店をまた手伝うようになったのですが、父が店で倒れてしまい急逝し、店を継ぐことになりました」。

先代の父は継がなくて良いと言いながらも「ラーメンの作り方は覚えておけ」と一から作り方を教えてくれた。手に職をつけておけば生きていけるという親心。松田さんは『住吉亭』のラーメンの作り方を父からしっかりと受け継いだ。

毎日でも飽きないサラリとした口当たりの豚骨スープは、豚の頭骨と頭皮を営業中ずっと炊き続け、前日のスープを元に新しい材料を継ぎ足して新しいスープを仕込んだもの。それを一週間毎日繰り返すことで旨味がどんどん増していく。いわゆる「呼び戻し」の製法に近いが、週に一度に「ガラ替え」を行い寸胴を真っ新にしてまた仕込み直す。他の店ではあまり見られない製法だ。

「基本的なスープの作り方は父から教わったままで変えていませんが、作業を丁寧にするよう心がけています。また、昔とは頭骨の状態が変わってしまったので頭皮を足すようにして、ガラも事前に掃除してから炊くようにしました」。

日々継ぎ足して作る豚骨スープは週に一度「ガラ替え」をすることでリフレッシュ。日によってスープの表情が変わるのを楽しめれば達人の域

先代の急逝から6年。今『住吉亭』は松田さんを中心に、兄の慎吾さんと母の桂子さんの家族三人で営業している。寡黙にラーメンを作り続ける兄弟と、にこやかに接客をする母。阿吽の呼吸でテンポ良くラーメンを作って提供していく姿は、一朝一夕では培われない信頼関係から生まれているのだ。

「今まで従業員を雇ったこともありますが、ラーメン作りを他人に教えることはとても難しいですね。ラーメン屋の仕事は地味ですし忍耐も必要なんです。他人に気を遣いながら仕事をするよりも、気心知れた家族で仕事をする方が楽しいですし、この三人だから店を続けられているとも思います」。

兄の慎吾さん(左)と母の桂子さんと。「この三人でなければ住吉亭は出来ません。可能な限りずっと家族三人でお店を続けて行けたらと思っています」

『住吉亭』のラーメンにはネギが多い。もっとネギを入れて欲しいという客の要望に応えているうちに、気がつけば今のような量になった。ネギの量は手で一つかみ。ネギ農家の人が協力してくれているため、この量で商売が成り立つ。

「ワンタンメン」(900円)/ピロピロとした食感が心地よいワンタンがたっぷりと入った人気の一品。食べている途中で卓上の高麗人参酢を使って味の変化を楽しむのもオススメ

博多の人々の日常に寄り添う『住吉亭』のラーメン。これこそソウルフードとしての「博多ラーメン」と言えるだろう。

「自分では博多ラーメンとか何系とか考えたことはないんです。僕はただ豚骨ラーメンを作っているんだと思っています」。

卓上にある辛子高菜や紅生姜は好きなだけ入れて、ラーメンを自分好みの味にカスタマイズする楽しさが。優しい味わいの豚骨スープの表情がガラリと一変する人気のアイテム

 

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●取材を終えて

時代に流されることのない一杯

私が初めて『住吉亭』のラーメンを食べたのは、もう20年ほど前になるでしょうか。驚くほどにネギが乗ってきたので、 ネギラーメンと間違えたのではないかと思ったほどでした。 その時にはまだ店主の洋介さんはお店を継がれていなかったわけですが、しっかりと味を再現されて暖簾を守られていることに、オールドファンとしては嬉しく思っています。この連載では洋介さんを中心に文章を書かせて頂きましたが、お兄様やお母様にも取材に同席して頂き、お話もたくさん伺うことが出来ました。いつまでも健康に気をつけてご家族三人で仲良く営業されて下さい。また皆さんの笑顔と美味しいラーメンに会いに行きますね。

【ラーメン評論家 山路力也】
テレビ・雑誌・ウェブなど様々な媒体で情報発信するかたわら、ラーメン店のプロデュースなど、その活動は多岐にわたる。「福岡ラーメン通信」でも情報発信中

 

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掲載の内容は取材時のものです。取材日と記事公開日は異なる場合があり、メニューや価格、営業時間、定休日など取材時と異なる場合がありますので、事前に公式HPやお問い合わせにてご確認をお願いします。

ラーメン住吉亭

【所】福岡市博多区博多駅南5-5-1
【☎】092-411-6868
【営】11:00~17:00
【休】日曜
【席】14席
【P】あり
【カード】不可

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