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【福岡ラーメン物語 のぼせもん。|65杯目 拉麺處 丸八】

「ラーメンを作るのが好きなんですよ。お客様の笑顔が見えますからね。」

すべて自分でやらないと気が済まない。人から習えば人の味。自分の味は自分で探すしかない。人に頼らず独学でこの味にたどり着いた。仕込みもラーメン作りも他人には任せられない。だから今日も厨房に立つ。

 

拉麵處 丸八

渡邉 健(Ken Watanabe)

1949年、大分県日田市生まれ。大阪で料理修業を積んで、両親が営む和食店に入る。その後独立し、1972年に『油山山荘』を創業。1989年『丸八』を開業しラーメンの世界へ。2022年『拉麺處 丸八』として再び開業。

 

福岡の市街地から車で20分ほどの場所にある、標高597mの油山にひっそりと佇む、1972(昭和47)年創業の割烹『油山山荘』。日本庭園を眺めながら河豚料理を堪能出来る名店の敷地内に、一軒のラーメン店があるのをご存知だろうか。

店名は『拉麺處 丸八』。厨房に立つのは『油山山荘』の主人、渡邉健さん。和食の料理人として半世紀以上のキャリアを持つベテラン職人。今も毎日、昼はラーメン店でラーメンを作り、夜は割烹で河豚を捌いている。

「身体はきついですけれど、仕込みから全部自分でやっています。他人に任せるのが好かんのですよ。ラーメンも料理も自分の思い通りにやりたいんです。特にラーメンは難しくて手が抜けないですからね」

渡邉さんは16歳の時に和食の世界に入った。10年後に自分の料理店を持ち人気店となった。しかしもう一つの夢があった。それはラーメン店の主人になることだった。

「ラーメンが大好きでどうしてもやりたくなって、料理屋をやりながらラーメン屋も始めたんです」

『チャーシュー麺』(1200円)/柔らかな豚バラ肉のロールチャーシューは、ラーメンの味を生かすように味付けは控えめ。厚みもあって食べ応え十分。チャーシュー好きなら必ず注文したい逸品だ

渡邉さんは独学でラーメンの研究をはじめ、板付で昼のみ営業のラーメン店『丸八』を開業。 和食店とラーメン店の両方を営み、どちらも人気を博していたが、和食店が忙しくなったこともあり、20年近く愛されたラーメン店の暖簾を一度畳んだ。

しかしコロナ禍の中、ラーメン作りへの思いが再び沸いてきて、割烹のランチでかつてのラーメンを提供し人気を博した。そして今回、敷地内の宿泊施設を改装してラーメン店を完全復活させたのだ。

「骨は頭骨と脛骨だけで、脂とか余計なものはいれていません。以前は鉄釜で炊いていたのですが、今回は寸胴なので火加減などが全く違って難しいですね」

『ラーメン』(1000円)/豚の頭骨と豚骨を3日かけて取ったスープにまろやかな醤油ダレ。和食の料理人としての技術も生かされた深みのある一杯は、今も日々改良が重ねられて味が進化し続けている

渡邉さんの作るラーメンは、一見昔ながらの博多ラーメンのように見える。しかしスープを一口啜ると、しっかりと骨の旨味にあふれた力強さを感じることが出来る。基本的な設計は以前の店と変えてはいないが、今もより美味しくなるようにと改良を重ね、その味は日々進化し続けている。

「ラーメンはタレも大事ですが、やっぱり骨ですね。骨は冷凍ではなく生バラ肉を使います。冷凍骨だと旨味が出ないんですよ。フレッシュな骨の髄で旨味を出して、肉のドリップで味をつけるイメージです。仕上げに古骨を入れてさらに旨味を加えて、3日経ってようやくお客様にお出し出来る味になります」

豚骨は冷凍ではなく生ガラを使うことで、肉の旨味をスープにもしっかりと取り込む。

ラーメン作りは大変だけど楽しいと語る渡邉さんは、多くの著名人や食通を唸らせてきた料理人というよりもラーメン屋のオヤジそのものだ。

「ラーメンは楽しいですよ。やっぱりね、裏方はつまらんですよ。割烹と違ってお客様の笑顔が見えるじゃないですか。帰り際に美味しかったと言って貰えるし、昔のラーメン屋の常連さんにも会えるし、新しい若いお客様も来てくれるし。これからもずっと続けていきますよ。そのためにはもっと美味しく進化させていかないとね」

『白飯(小)』(200円)/使用する米も厳選して炊き方もこだわる。ラーメンに専念したいからと、余計なサイドメニューは一切置かない潔さ、自家製高菜と食べると美味しさ倍増

 

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●取材を終えて

今でも進化し続けているラーメン

料理人としてもラーメン職人としても、ベテランの渡邉さんが作るラーメンに対して、こういう言い方も失礼だとは思うのですが、食べるたびに味が美味しくなっているのに驚かされます。実は取材の数ヶ月前にもプライベートでお邪魔しているのですが、その時と比べても格段に美味しくなっている。素直にそれをぶつけてみたところ「そうでしょう。炊き方とかも変えたり材料も増やしたりしているからね」とニヤリ。渡邉さんの職人としての飽くなき探究心と向上心が垣間見えた気がしました。街中からだとちょっとアクセスが悪い場所にありますが、その手間をかけてでも食べに行く価値のあるお店です。

【ラーメン評論家 山路力也】
テレビ・雑誌・ウェブなど様々な媒体で情報発信するかたわら、ラーメン店のプロデュースなど、その活動は多岐にわたる。「福岡ラーメン通信」でも情報発信中

 

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掲載の内容は取材時のものです。取材日と記事公開日は異なる場合があり、メニューや価格、営業時間、定休日など取材時と異なる場合がありますので、事前に公式HPやお問い合わせにてご確認をお願いします。

 

拉麺處 丸八

【所】福岡市城南区東油山147
【☎】092-871-5034
【営】11:00~15:00
【休】月・火曜、金曜
【席】18席
【P】あり
【カード】不可

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