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【福岡ラーメン物語 のぼせもん。|63杯目 博多ラーメン屋 一十】

「ひたすら一日一日、一杯を丁寧に作るだけ。ラーメン屋は僕の天職なのだと思います。」

五右衛門釜は暴れ釜。大量の豚骨を投入して強火で炊き上げるのは、時間も手間もかかる重労働。それでも汗水流しながら釜と向き合い続けるのは何故なのか。食べる人の喜ぶ顔が見たい、ただそれだけだ。

 

博多ラーメン屋 一十

結城 英彦(Hidehiko Yuuki)

1974年、 福岡県那珂川市生まれ。製菓店や精肉店などでの勤務を経て、1997年に両親が営む『一十ラーメン』に入りラーメンの世界へ。2012年に二代目として店を継ぎ、『博多ラーメン 一十』としてリニューアル。

 

太宰府市朱雀。古くは「遠の朝廷」と呼ばれた都督府が置かれた地にも程近い、「令和の里」とも呼ばれる歴史ある場所で四半世紀続くラーメン店がある。

店主の結城英彦さんは高校卒業後に一般企業に就職。そんな折に父親が脱サラしてラーメン店を開業。父親は『一九ラーメン』の味に惚れ込み、一年間の修業を経て独自に研究を重ねて自分の味を完成させた。屋号は修業先にあやかり、追いつけ追い越せの決意も込めて『一十ラーメン』とした。

ラーメンとは無縁の人生を歩んでいた結城さんだが、休みの日に両親を手伝っているうちに父の作るラーメンに魅せられていった。

「この美味しいラーメンをもっと多くの人に食べて欲しいと思って、僕が店に入ることでもう一店舗出せるなと。それで仕事を辞めてラーメン屋になりました」。

『博多ラーメン』(650円)/古き良きノスタルジックな博多ラーメンを進化させた、一十でまず食べるべき基本の一杯。五右衛門釜で炊いたスープはクリーミーながらもしつこさはなく、ほのかに香る豚骨臭がクセになる

十年ほど二店舗体制で営業して人気を博していたが、代替わりのタイミングで一店舗に集約し、屋号も『博多ラーメン屋 一十』にあらためて再スタートを切った。

「親父から店を継いで自分の店として新たなスタートを切る上で、それまでは居酒屋的に使われる方も多かったんですが、いま一度ラーメン屋として勝負しようと決意して、店名にラーメン屋と掲げました」。

味の基本の醤油ダレは父の代から受け継がれているもの

自分の好きな味でもある、父親から受け継いだ味の基本は守りながらも、時代や客の嗜好に合わせてスープの濃度などは変えていった。さらにちゃんぽんや焼きそばなどのメニューはなくして、ラーメン一本で勝負するスタイルに変えた。

「スープの濃さなどかなり変えているのですが、昔からのお客様には「変わらないね」と言われます。醤油ダレは昔のままなので、味の印象は変わらないのだと思います」。

豚の頭骨、背骨、ゲンコツは下処理をしないことで、豚骨の荒々しさを表現している。

結城さんの代になってメニュー構成やスープ、さらには麺などを変えて二代目ならではのオリジナリティを追求してきた。しかし創業当初からまったく変わらないものもある。五右衛門釜を使い灯油バーナーの高火力で炊く昔ながらの製法だ。

「五右衛門釜は「暴れ釜」と呼ばれるほどで扱いが難しいのですが、うちのラーメンはやはりこの釜でなければ完成しません。季節によって火の入れ方も変わりますし、経験を重ねていかないと良いスープを取ることは出来ません。親父は丁寧に骨を洗ってから炊いていましたが、僕は敢えて骨を洗わずそのまま入れることで、豚骨らしいクセになる風味を加えています」。

歯切れの良い細ストレート麺は『博多製麺処』による福岡県産ラー麦100%のオリジナル麵を使用する

大量の豚骨を五右衛門釜に入れて灯油バーナーで長時間炊き続ける「呼び戻し」製法。釜は洗わずに継ぎ足して作り続けることで、日に日に釜の中で旨味が増していく。一十のスープは昨日よりも今日、今日よりも明日が美味いのだ。

「時間もかかるし休みも取れないキツイ仕事です。父も継げとは言わなかったし、僕の息子も継ぎたくないと言っています。それでも続けているのは、お客様が美味しいと言って下さるから。ラーメン屋は僕の天職なのかも知れませんね」。

『濃厚豚骨醤油ラーメン』(850円)/力強い醤油の味わいと、背骨やマー油、鶏油などを合わせたパンチの効いた一杯。一日10杯の数量限定メニューなので、残っていたら迷わずオーダーを

 

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●取材を終えて

古き良き博多ラーメンの原体験

初めて私がこの店へお邪魔した時、食べ終わった後に結城さんが厨房を案内して下さったのですが、まず巨大な五右衛門釜に圧倒されました。今となっては珍しい灯油バーナーを使い、その火力を余すことなく使うために釜の周りに囲いが作られている光景は圧巻そのもの。そしてその巨大な釜とは対照的に、麺茹での蓋はとても小さなもので、直角に折り曲げられた平ざるを使って、巧みに麺を茹でる昔ながらのスタイル。ラーメンの味だけではなく、 その製法や作法も博多ラーメンの伝統をしっかりと受け継いでいこうという、結城さんの熱い想いを感じました。いつか息子さんがその想いを継いでくれると良いですね。

【ラーメン評論家 山路力也】
テレビ・雑誌・ウェブなど様々な媒体で情報発信するかたわら、ラーメン店のプロデュースなど、その活動は多岐にわたる。「福岡ラーメン通信」でも情報発信中

 

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掲載の内容は取材時のものです。取材日と記事公開日は異なる場合があり、メニューや価格、営業時間、定休日など取材時と異なる場合がありますので、事前に公式HPやお問い合わせにてご確認をお願いします。

 

博多ラーメン屋 一十

【所】太宰府市朱雀6-5-17
【☎】092-929-0015
【営】11:00~14:30/17:00~22:00(日・月曜~22:00)※材料がなくなり次第終了
【休】火曜
【席】17席
【P】5台
【カード】不可

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