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【福岡ラーメン物語 のぼせもん|75杯目 永福】

「若い頃から一日も休んだことがありません。毎日お客さんと話すのが楽しいんですよ」

ラーメンとは実に不思議な食べ物だ。店主の想いや生き様が味に出る。毎日でも食べられるような優しい味わいでありながら、一本芯が通ったような力強い旨味が顔を出す。それはまるで店主の人生のようだ。

『中華そば』(750円)/豚骨、鶏ガラに煮干しや鰹節、昆布に野菜を加えたスープは濃厚な旨味が複合的に重なり合う。製麺所に特注した中太麵との相性も抜群の一杯

 

永福 店主

中園 保宏(Nakazono Yasuhiro)

1972年、福岡県田川郡生まれ。服飾業界からラーメンの世界へ。2013年、南区長住で『えいふく』を創業。2017年に現在の場所へ移転を機に『永福』に改名。

 

多くの飲食店が立ち並ぶ天神南の細い路地に小さな一軒のラーメン店がある。店内に入るとスープの優しい香りがふわっと広がり、厨房のにこやかな笑顔の店主が出迎えてくれる。 『永福』は豚骨ラーメンばかりの福岡で、十年にわたり醤油味の中華そばで人気の店だ。

店主の中国保宏さんは、デザインの学校を卒業後に上京し古着店に就職。その時に出会ったのが永福町にある中華そばの老舗『大勝軒』だった。ラードが浮いた濃厚な煮干しの醤油スープが特徴の人気店だ。

『ゆず塩つけ麺(小)』(800円)/味の決め手となる柚子胡椒は、中園さんの地元添田町のものを使用している

福岡では食べたことのない味に衝撃を受けた中園さんは、毎日のように永福町まで足を運ぶようになった。その後福岡に戻り学生時代の仲間と古着店を立ち上げ、仕事も順調だった。そんな時、福岡に『大勝軒』の系列店が出来た。沸々とラーメンへの思いが強くなっていった。

「元々はレゲエが大好きで音楽を仕事にしたかったんです。しかしその夢は果たすことは出来なかった。そんな時に大好きだった大勝軒と再会し、ラーメンで自分を表現してみたいと新たな夢が生まれました」。

自慢のスープは提供のたびに一杯ずつ手鍋で熱々に仕上げている

『大勝軒』で修業をはじめ、その後豚骨ラーメン店での経験を経て、南区長住に『えいふく』という屋号で独立開業し、移転時に『永福』と改めた。店名は『大勝軒』のある東京永福町の名前から頂戴した。とは言え中華そばは『大勝軒』と同じではなく中園さんのオリジナルだ。

「シンプルで昔ながらの雰囲気のある中華そば、というイメージは大切にして、あとは試行錯誤しながら自分の味を作り上げました」。

試行錯誤で生み出された醤油ダレはふくよかなスープにキレのある味わいを与えている

豚骨や鶏ガラなど動物系の出汁を濃く抽出することで、豚骨に慣れ親しんだ九州の人たちの舌に合わせたスープ。そこに煮干しや鰹節、昆布などの魚介系素材と香味野菜を合わせて旨味の層を作り出している。

地元福岡の川原食品に特注した中太縮れ麺は、中華そばにもつけ麺にも使用する

今でこそ醤油や味噌など豚骨ラーメン以外の味が増えている福岡だが、『永福』の開業当初はまだ醤油ラーメンなどを出す店は少なかった。そんな中、中園さんは敢えて醤油味の中華そばとつけ麺を看板メニューに据えて勝負に挑んだ。

「やはり自分が好きな味を出したかったのが一番大きいですね。しかし不安は全くなくて、むしろ期待の方が大きかったんです。福岡にも豚骨は苦手な方がいますし、東京から仕事で来られている方もいますので、豚骨ラーメンではない中華そばにもチャンスはあると思いました。ただ僕自身豚骨ラーメンも大好きなので、たまに自分用でこっそりと作ることはありますよ」。

いつも笑顔の中園保宏さん。音楽からラーメンへと夢の形は変わったが、お客さんに喜んで貰いたいというスタンスは変わらない。今でも仕事の合間を縫って、DJとしてイベントなどにも参加して音楽活動を続けている

地元の住民はもちろん近隣のオフィスワーカーや出張族や観光客など『永福』を訪れる客層は実に幅広い。そんな人たちのために『永福』では基本的に休みの日がない。中園さんは創業以来、毎日店に出てスープや具材を仕込んで営業に立っている。

「やはりお店に出ているのが一番好きなんですよ。毎日お客さんとラーメンや音楽の話をするのが楽しいので休まず営業しています。体力は結構ギリギリだったりするのですが、現状維持を目標にこのままずっとラーメンを作り続けていきたいですね」。

『餃子』(500円)/肉汁をギュッと閉じ込めたオリジナルの逸品。味がついているので添えられた柚子胡椒だけで美味しく食べられる

 

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●取材を終えて

福岡らしさが感じられる中華そばの進化形

私が初めてこのお店にお邪魔したのは、移転して間もない2017年のことでした。プライベートで初めてお店に伺う時には、名乗ることもなければお店の人と話をすることもしないのですが、他にたまたまお客さんがいらっしゃらなかったのと、中園さんの優しい接客もあって色々とお話しさせて頂きました。永福町の『大勝軒』をはじめ、東京の煮干し系の中華そばは数多く食べてきましたが、中園さんの作る中華そばは一見東京スタイルの中華そばのようでいて、随所に福岡らしさが出たものでした。それは福岡で生まれ育って、東京の中華そばに衝撃を受けた中園さんだからこそ作れる一杯なのだなと今回改めて感じました。

【ラーメン評論家 山路力也】
テレビ・雑誌・ウェブなど様々な媒体で情報発信するかたわら、ラーメン店のプロデュースなど、その活動は多岐にわたる。「福岡ラーメン通信」でも情報発信中

 

 

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掲載の内容は取材時のものです。取材日と記事公開日は異なる場合があり、メニューや価格、営業時間、定休日など取材時と異なる場合がありますので、事前に公式HPやお問い合わせにてご確認をお願いします。

 

永福

【所】福岡市中央区渡辺通5-24-38
【営】11:00~15:00/16:30~22:00
【休】火曜
【席】5席
【P】なし
カード/不可

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