サウナ備忘録 Vol.1
田迎サウナ
先週の備忘録では熊本・九州が誇るサウナの聖地『湯らっくす』について綴ったが、熊本には名サウナが多い。
多くの水源を持ち、政令指定都市にて唯一地下水で水道水をまかなっていることがその理由のひとつ。
多くのサウナ愛好家がこだわるのはその施設の「水」だ。
全国的に神聖視されている代表的な施設として静岡の「しきじ」や熊本の「湯らっくす」があるが、双方ともに「天然水の水風呂」は大きな特徴として捉えられている。
いわゆるカルキ臭さを感じる水風呂は良しとされないことが多い。
その点、熊本は「蛇口をひねればミネラルウォーター」という利点が大きく、なんでもない施設がサウナ愛好家からすると「とんでもない良施設」となるようなアドバンテージを持っているのだ。
しかしながら、私が考えるサウナ施設にとって一番の魅力は、そのホスポタリティだ。
別におもてなしを期待しているわけじゃない。
自分が行きたいときにそこに存在してくれて、変わらない価値観を持ってくれているだけで安心できる。
いわば施設の「人となり」が見えるサウナ。そんなサウナに惹かれることが多い。
そんな「顔の見えるサウナ」が熊本にはたくさんあると思っている。
水の良さやサウナの設備の良さだけでは語れない、そんな魅力のあるサウナを紹介したい。
その代表格だと個人的に思っているのが熊本市田迎にある『田迎サウナ』だ。
ここ最近、全国のサウナ愛好家たちが訪れるようになり、テレビやラジオでも紹介されるほどになったが、
昨年12月までは常連以外、地元のサウナ愛好家たちですら営業していることすら知られていない現代の「ガラパゴス・サウナ」だったのだ。
まずこのサウナ、基本的に無人である。
客はいれども主はいない。
客はカウンターにある水槽に500円玉を入れて入浴する。
お札しかない人は紐でぶら下げられたお釣りの500円を勝手に取って良い。
そんな無人野菜販売所みたいなサウナなのだ。
「顔の見えるサウナ」と言っておきながら「無人」って何だよと思われるかもしれないが、ここはまさに「客が自治するサウナ」という奇跡のような存在なのだ。
サウナの本場・フィンランドのヘルシンキに『ソンパサウナ』というサウナが存在する。
どこかの誰かがヘルシンキの都市内にある海沿いの埋立地にサウナ小屋を作ってしまい、そこに人が集まるようになり、寄付と自治で発展を続けているというまさに自由の象徴のようなサウナなのだが、田迎サウナはソンパサウナの精神に近いものを持っている。
サウナ好きの常連たちは気持ちよく挨拶を行い、新規客たちに対しても気兼ねなく施設の使い方を教えてくれる。
小さな小さなコミュニティなのだが、よそものや一見に対してもマナーやモラルを守る限りは常に平等に接してくれる。
「刺青禁止」「泥酔入浴禁止」のルールも絶対で、施設の人がいない以上それを守るのは常連たち。
その場にいる常連たちが田迎サウナの秩序を保っている。
サウナ専用施設が多く存在した30年以上前から存在しており、サウナ室の設定は当時からの設定を彷彿とさせるような強気の120度。
おまけのような湯の浴槽と、主役として鎮座するちょっとしたプールのような水風呂。
もちろん水風呂は地下水じゃばじゃば掛け流しの飲める水風呂だ(実際に水の出口にコップがあって飲める)。
ローカルルールで水風呂に入る前の汗流しはカットされるが、そんなことは気にならない水量の掛け流し。
飲める水風呂というのも、常連同士で「本当にここの水風呂は飲めるのか?」という議論になり、
ある一人の常連が検査機関に持ち込んでお墨付きをもらってきたという笑えるエピソードもあるそうだ。
そんな田迎サウナは、ここ近年のサウナカルチャーブームに飲まれることなくアマゾンの奥地で発見された新しい部族のようにサウナの楽しみ方を密かに続けてきたのだ。きっと世の中にはまだまだ世に触れず独自の進化を遂げてきたサウナ施設があることだろう。
熊本のもう一つの聖地としてこの「田迎サウナカルチャー」も末長く存続してほしいと切に願う。
『田迎サウナ』
住所 熊本市南区良町1-17-12
電話 096-378-6090
営業時間 12:00~20:00