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【福岡ラーメン物語 のぼせもん|48杯目 ざいとん】

「豚骨では表現出来ない旨味と香り。奥深い出汁感のある一杯を作りたい。」

名古屋で生まれ育った青年は豚骨ラーメンが大好きだった。豚骨ラーメン屋をやりたいという夢を地元で叶えたが、豚骨の本場で勝負したいと福岡へ移り人気店となった。豚骨がきっかけで福岡に住み、福岡を好きになり、福岡に骨を埋める覚悟を決めた男が、突然豚骨ラーメンを封印した理由とは。


ざいとん

橋本卓哉 / TAKUYA HASHIMOTO

1983年、 愛知県大府市生まれ。高校生の時に名古 屋で食べた豚骨ラーメン に衝撃を受け、ラーメンの 世界を志す。 2009年、 名古屋で「ざいとん」を創 業。 2014年福岡に移転し、2020年メニューを一新


福岡市東区香椎。西鉄香椎駅から程近い場所に佇む一軒のラーメン店がある。「ざいとん」という屋号でありながら豚骨ラーメンは置かれてなく、看板メニューは魚介の効いた醤油ラーメン。しかしこのお店は、つい最近までは豚骨ラーメンで人気を博していた店なのだ。

「中華そば」(630円)/宗太節や煮干しなど魚介をふんだんに使用したスープは、すっきりとした口当たりながらも旨味にあふれ後を引く味わい。製麺所に特注したオリジナルの中細縮れ麺が、スープとしっかり絡み合う。豚骨ラーメンを封印した、ざいとんの新たな顔となる醤油ラーメン。

「豚骨ラーメンをやめる時はかなり勇気がいりましたね。ただ豚骨を十年やってきて、新しいものを作ることが楽しくなってしまったんです。それで豚骨を一旦封印することにしました」

 

ざいとん店主の橋本卓哉さんは愛知県生まれ。高校生の時に博多ラーメンを食べてその美味しさに魅せられ、いつかはラーメン屋になりたいと思った。20歳の時にラーメンの世界に入るも、一度は離れて別の仕事に。しかしラーメンへの想いが捨てきれずに仕事を辞めて、福岡行きの夜行バスに飛び乗った。

 

「本場の豚骨を勉強したいと思い、福岡に来て2週間ホテルに泊まって、毎日ラーメンを食べ歩きました。それから修業先を見つけ、ラーメン修業をはじめました」

 

 

老舗ラーメン店など2軒で一年半本場福岡の豚骨を学び、名古屋に戻ってさらに博多ラーメン店で昼夜にわたり2軒掛け持ちしながら働き、2009年に地元で豚骨ラーメン店『ざいとん」を創業した。

 

豚の頭骨だけを使いながらも、臭みのないクリーミーなオリジナルの豚骨ラーメンは、名古屋の人たちに受け入れられて人気店となった。しかし橋本さんの心の中にある思いがふつふつと湧き上がってきた。

「修業していた時に福岡が好きになって、いつかは福岡で自分の店をやりたいと思っていたんです。それで5年経った時に福岡へ移転することを決めました」

 

2014年、香椎の地に移転オープン。橋本さんの豚骨ラーメンは福岡の人にも受け入れられたが、同時に名古屋では出していなかったラーメンもメニューも加えた。それが醤油味の「中華そば」だった。

 

「福岡の人は豚骨ラーメンしか食べていないイメージだったので、違うラーメンも食べて欲しいという思いから中華そばを始めました」

中華そばをはじめ、数々の限定ラーメンは出汁が命。宗太節、鯖節など複数の魚節や煮干しを組み合わせて、ベースとなるスープを作り出す。麺は人気製麺所「製麺屋慶史」に特注したものを、ラーメンの種類によって3種使い分けている

 

限定メニューとして豚骨以外のラーメンを1シーズンに1品ずつ出してきた橋本さん。新しいラーメンを作る楽しさと、お客さんの反応も好評だったため、2020年から限定ラーメンのサイクルを早めて色々なメニューを出すように変えた。

「酸辣湯麺」(850円)/酸味と辛味の絶妙なバランスの中に、和出汁の奥深い旨味が広がる。中華料理で知られるの麺料理もざいとんが仕上げると一味違う

 

新しいざいとんのテーマは「出汁感」。旨味と香りを大切にしたラーメンという軸を据えて、毎月のように新たなラーメンを創作して提供し続けている。

 

 

「鯖汁無し担々麺」(850円)/鯖節がたっぷりと入りガツンと旨味が広がる、和風でオリジナリティあふれる担々麺。混ぜれば混ぜるほど美味しさが増していく、クセになる一杯だ

「すっかり出汁の世界にハマってしまって、出汁の美味しさと香りを生かしながら、奥深い味わいになるように毎回作っています。ラーメンって決まったレシピがないじゃないですか。その中で何と何を組み合わせたらどうなるのか、自由に考えて味を創れるのが楽しくて仕方がないんです」

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■取材を終えて

作り手のワクワク感が丼から伝わる

初めてお邪魔した時は豚骨ラーメンや台湾まぜそばがあり、なるほど福岡でラーメンを学び名古屋で営まれていたという経緯を感じるメニュー構成でしたが、創業以来の看板メニューである豚骨を封印したと聞き正直驚きました。長年ずっと作り続けてきた豚骨をメニューから外すというのは勇気が要ったと思いますが、それよりも新しいラーメンを作りたいという好奇心や職人魂が勝ったのでしょう。休みの日にはラーメン以外のジャンルの料理を積極的に食べ歩いて勉強しているという橋本さんですが、そのワクワクとした感じが丼から伝わってきます。唯一困るのは魅力的なメニューが多過ぎて、優柔不断な私には一つに絞れないことでしょうか。

ラーメン評論家

山路力也 / Rikiya Yamaji

テレビ・雑誌・ウェブなど様々な 媒体で情報発信するかたわら、 ラーメン店のプロデュースなど、 その活動は多岐にわたる。「福岡ラーメン通信」でも情報発信中


掲載の内容は取材時のものです。取材日と記事公開日は異なる場合があり、メニューや価格、営業時間、定休日など取材時と異なる場合がありますので、事前に公式HPやお問い合わせにてご確認をお願いします。

ざいとん

【所】福岡市東区香椎駅前1-17-24
【営】11:30~18:00(日曜~14:30)
【休】月曜
【席】11席
【P】なし
カード/不可

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