【福岡ラーメン物語 のぼせもん|43杯目 珍竜総本店
「その時代に寄り添いながらも、
変わらない味を出し続けます。」
代々受け継がれる店と味。元来、ラーメン店とはそういうものだった。子供の頃から毎日のように食べていたラーメンを、大人になって自分が作って客に出す。こうしてその味は街に根付き、客もまた何世代にもわりその店へ通い続けていく。古くから愛され続けているラーメン店がある街は、それだけで住む価値がある。
珍竜総本店 店主
品川徳孝 / NORITAKA SHINAGAWA
1982年、福岡県北九州市生まれ。子供の頃から祖父の作るラーメンで育ち、大学時代からアルバイトで店を手伝う。その後、就職するも、2006年にラーメンの世界へ
人は誰でも子供の頃から慣れ親しんだ味や店があるだろう。小さい時は親に連れられ、学生時代は友人たちと行き、そして親になったら子供を連れていくような。
しかしながら、今飲食業界では後継者難が問題になっており、長年愛された店が惜しまれつつも暖簾を下ろすことも少なくない。子供の頃に大好きだった店に今も通えるということは、とても恵まれていることなのだ。
北九州小倉に半世紀以上愛され続けているラーメン店がある。
「珍竜軒 総本店』の創業は昭和40(1965)年。日本で初めて軽トラックの屋台でラーメンを作り始め、路面店を経て開業55周年の節目の年に、二階建ての新店舗での営業をスタートさせた。真っ新な明るい店舗にはサラリーマンや家族連れなど、老若男女問わず多くの常連客が次々と入ってくる。
慣れ親しんだ客一人ひとりの顔を見て、麺を茹でながら笑顔で声をかけているのが三代目店主の品川徳孝さん。ホールにはそんな息子の姿を目を細めて見つめている二代目の茂信さんがいる。
この店を創業したのは品川さんの祖父。子供の頃から祖父の作るラーメンを食べて育った。
「おじいちゃんの作るラーメンは好きでしたね。学生になって他の色々なお店も食べに行きましたが、やっぱりウチの味は美味しいと思っていました」
大学時代にアルバイトとして店を手伝ってはいたが、親からも店を継げとは言われなかった。その後、就職するも、接客業や飲食業の楽しさが忘れられず家業を継ぐことを決めた。
「最初はやはり慣れない仕事で苦労しました。先輩や常連客の方達に育てられて少しずつ出来るようになって。その後、FCの立ち上げを任されるようになって、そこでかなり鍛えられたと思います」
飲食店では代が変わって味が落ちたと良く言われる。しかしその大半は客側のイメージでしかない。先代と比較されるのは、後継の「宿命」とも言えることだ。
「以前と同じことをしているだけでは、先代や先々代に負けてしまうんです。だから僕はそれ以上を目指さなければいけません」
品川さんは代々受け継がれている基本の味は守りながらも、接客面や居心地の良さを徹底的に追求し、客とのより深い信頼関係を構築することを自分の武器にした。
長年親しまれた旧店舗の隣に出来た二階建ての新店舗は、一階がカウンターで二階がテーブル席と小上がり席という作り。足腰に負担がかかる年輩客から、赤ちゃんがいる家族連れにまで配慮した空間になっている。「お客様も三代で来て下さる方が多いんです。ご家族連れにはお昼時でも二階でゆっくり過ごして頂きたいと思っています」
店も三代、客も三代。『珍竜軒』の新たな歴史がここから始まろうとしている。
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■取材を終えて
これから先がますます楽しみな「老舗」
これまで数多くの老舗ラーメン店にお邪魔してきましたが、いい意味で老舗感のない現役バリバリな勢いを感じさせるお店です。来るお客さん一人ひとりに声をかけながら、厨房や店舗全体にも目を配る三代目の徳孝さん。その姿を優しい目で見つめながら「息子は自分を越えていると思います」と笑顔で話してくれた父で二代目の茂信さん。後継者難で次々と老舗が閉店していく中で、この味がこれからも受け継がれていくことは一ラーメンファンとしても嬉しく思います。今後は直営で全国の主要都市に出店したいという想いを熱く語ってくれた三代目。きっと数年後には全国で珍竜軒の豚骨ラーメンを楽しむことが出来るでしょう。
ラーメン評論家
山路力也 / Rikiya Yamaji
テレビ・雑誌・ウェブなど様々な 媒体で情報発信するかたわら、 ラーメン店のプロデュースなど、 その活動は多岐にわたる。「福岡ラーメン通信」でも情報発信中
掲載の内容は取材時のものです。取材日と記事公開日は異なる場合があり、メニューや価格、営業時間、定休日など取材時と異なる場合がありますので、事前に公式HPやお問い合わせにてご確認をお願いします。
珍竜軒総本店
【所】北九州市小倉北区三郎丸1-5-5
【☎】093-941-3750
【営】11:00~17:00(今後20:00に変更予定)
【休】火曜
【席】32席
【P】18台 カード/不可