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【福岡ラーメン物語 のぼせもん|41杯目 六味亭

「本物のあご出汁の美味しさを、ラーメンを通じて伝えていきたい。」

和食の世界で長年腕を鳴らしてきたベテラン料理人が、ラーメンに真正面から向き合った。一杯のラーメンの中に込められているのは、和食の料理人としての矜恃と博多の食文化への想い、そしてラーメンへの愛情。たかがラーメンとは言わせない、料理としての高みを目指した一杯。料理人が本気を出すと、ラーメンはここまで美味しくなる。

「中華そば」(650円)/上五島産の焼あごをベースに干し椎茸や昆布を合わせた出汁と、鶏ガラの旨味を丁寧に抽出した鶏スープをブレンドしたオリジナルスープは、博多もんがこよなく愛する、博多雑煮と水炊きをリスペクトしたハイブリッドな味わい

 


六味亭 店主/strong>

銘田俊介 / SHUNSUKE MEIDA

1977年、福岡県糟屋郡生まれ。21歳の時に関西の老舗料亭で経験を積み、福岡に戻り大衆割烹の料理長を経て、2014年に独立し居酒屋「六味旬蔵」を開業。2018年「六味亭」を開く


美味しいラーメンとは何だろう。良い素材を使って正しい調理法で作れば美味しくなるという、単純なものではない。一杯の丼の中にどれだけの想いを込められるか。作り手の想いの強さは間違いなくラーメンの美味しさに表れる。

 

糟屋郡志免町を縦断する県道68号線沿いには、多くのラーメン店が点在する。地元のラーメン好きが「ドラゴンロード」「豚骨ロード」と呼ぶこの通りに、2018年オープンした「六味亭」にはたくさんの想いが詰まっている。

店主の銘田俊介さんは地元須恵町の出身。京料理の老舗『たん熊」などで経験を積み、地元に戻ってからは生簀割烹の料理長も努め、独立後は須恵町で居酒屋「六味旬蔵」を営む生粋の料理人。そんな和食一筋の銘田さんがラーメン店を始めたのは地元の老舗への想いからだった。

 

「この店は元々「三洋軒」さんという老舗の豚骨ラーメン屋さんがあったんです。ご高齢で閉められるという話を聞いて、皆に愛された場所を自分が継いで守りたいという想いだけで借りました」借りることは決まったものの、何をするかは決めていなかった銘田さん。友人からは、うどん店をやればと勧められたが、この場所でやるのならやはりラーメンをやりたかった。

「担々麺」(690円)/鶏ガラスープに和食の素材と技法を取り入れた、オリジナリティあふれる担々麺は、中華そばと並ぶ二枚看板。あごを使った「あごそぼろ」が味に深みを加えている
「唐揚げ(3個)」(280円)/熟成した鶏もも肉を使った人気の唐揚げは、中国山椒と和山椒を忍ばせた特製スパイスが味の決め手

「ラーメンは大好きで「三洋軒」さんにも良く通いましたが、豚骨ラーメンは作り方も分からないし、この場所では恐れ多くて作れません。しかし、和出汁を使ったラーメンならば僕でも作れるのではないか。元々一品で勝負する専門店には興味があったので、ラーメン店をやる決心がつきました」

とはいえ、ただの和出汁ではラーメンには弱すぎる。ラーメンに成り得る出汁作りに試行錯誤した。そんな中でたどり着いた食材が、和食の修業時代の後輩が使っていた五島列島上五島産の稀少な「焼あご」だった。

 

上五島では一軒しかやっていない、炭火で焼いた本物の焼あごの美味しさをラーメンで多くの人に伝えたいという想い。焼あごは博多雑煮には欠かせない食材で、博多の人も慣れ親しんでいる味だが、そのままでは雑煮やうどんと変わらなくなってしまう。

料理人が作る本気のラーメン。ラーメン作りの随所に和食料理人として培ってきた技術と、中国料理出身の店長の技術が生かされている。

 

そこで水炊きにも使われる鶏スープを加えることで、ラーメンのスープとしての厚みとバランスを成立させた。和食の料理人として、博多の出汁文化をしっかりと感じて欲しい。銘田さんの数々の想いがラーメンに込められた。

 

「博多あご出汁中華そば」と名付けられた銘田さんのラーメンは、豚骨ラーメン好きの博多の人たちにも受け入れられ、一躍人気店になった。オープンして二年が経つが、更なる美味しさを求めて改良は続いている。

麺は人気製麺所「製麺屋慶史』と共に共同開発した熟成縮れ麺。

「全国でもあご出汁が有名になりましたが別物も少なくありません。特に地元の若い人たちに本当のあご出汁の美味しさを知って欲しい。そういう想いでこれからも一杯一杯丁寧に作っていきます」

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■取材を終えて

真面目な料理人が作る真面目な中華そば

仕事柄、これまで多くの「料理人が作るラーメン」を食べて来ましたが、その多くは「ラーメンをなめんなよ」と思うものばかりでした。どこかでラーメンは誰でも作れるという、見下したような想いがラーメンに現れていたのでしょう。しかし、ラーメンに本気で向き合っている銘田さんが作るラーメンは、逆に料理人でなければ作れない確かな技術と食材の知識が注ぎ込まれた、料理人の本気が伝わってくるものでした。料理は「ことわりをはかる」という意味。その食材をどうすれば美味しくなるのかを、論理的に筋道を立てて考えて正しい技術で仕上げてこそ料理。銘田さんのラーメンは料理としての品格を持った一杯だと感じました。

ラーメン評論家

山路力也 / Rikiya Yamaji

テレビ・雑誌・ウェブなど様々な 媒体で情報発信するかたわら、 ラーメン店のプロデュースなど、 その活動は多岐にわたる。「福岡ラーメン通信」でも情報発信中


掲載の内容は取材時のものです。取材日と記事公開日は異なる場合があり、メニューや価格、営業時間、定休日など取材時と異なる場合がありますので、事前に公式HPやお問い合わせにてご確認をお願いします。

六味亭

【所】糟屋郡志免町志免東2-1-10
【☎】092-937-0055
【営】11:30-15:00 / 18:00-20:30
【休】月曜
【席】15席
【P】15台
カード/不可

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