【福岡ラーメン物語 のぼせもん|40杯目 王餃子
「やはりラーメンはこの店の柱。
常に進化させていきたいです。」
誰にでもお決まりの「締めの店」があるだろう。時にラーメン、時にうどんと、福岡の夜はこれで締めなければ終われないという店が。中洲をほろ酔い気分で歩く人たちがこの店にどれだけ世話になったことか。深夜一時でも満席で入れない店。餃子をはじめチャーハンもカレーもなんでも旨い店。そしてもちろんラーメンも旨い店。
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王餃子 店主
山肩政剛 / SEIGO YAMAGATA
1969年、福岡県福岡市生まれ。大学卒業後、父親が創業した店を手伝う形でラーメンの世界へ。2009年に完全に代替わりして二代目店主に。現在も三人の息子と共に毎日厨房に立つ
深夜の中洲。散々食べて飲み歩いた酔客たちには合言葉がある。「王餃子で締めようか」店の前に出来る行列は中洲の夜の見慣れた光景。中洲で飲む人なら誰もが一度は訪れたことがある店が「王餃子」だ。
深夜でも常に満席の店の厨房に立ち、手際よく鍋を振るのが二代目店主の山肩政剛さん。独学で四半世紀店に立ち続けて味と技を極めて来た。『王餃子』の創業は1964(昭和39)年のことだが、山肩さんの父親が1957(昭和32)年に広島で創業した店が源流だ。今でもその店は広島で老舗の餃子専門店として半世紀以上にわたり愛されている。
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「父親が屋台をやっていた王さんに教えを乞うて始めたのが最初だそうです。その広島の店は親戚に譲り、自分は福岡で勝負したいと引っ越して来てこの店を始めました」東京に行くか福岡に行くか。東京には澄んだ醤油ラーメンはたくさんあるから、豚骨ラーメンしかない福岡に行けば流行るのではないか。そう考えて福岡に店を構えた山肩さんの父だったが、開業当初はまったく受け入れてもらえなかった。
広島で人気だった醤油ラーメンだが、豚骨ラーメンに慣れ親しんだ博多の人には見向きもされなかった。しかし新幹線が博多まで開通して福岡以外の人たちが増え始めると徐々に客足が増えて来た。
場所柄飲んだ締めに使われることが多く、中華の一品メニューを減らしてラーメンや餃子など締めに合うメニューに力を入れてからはさらに客足が伸びた。山肩さんは東京の大学に進学し、店を継ぐつもりはなかった。しかし25歳の時に父親から戻って来て欲しいと懇願されて店に入った。料理経験が全くない中、昔気質の職人たちの中で存在を認めてもらうには、自分自身の腕を上げるしかなかった。
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誰も教えてくれない中で炒め物など鍋振りのメニューと格闘する毎日。職人たちが声をかけてくれるまで一年近くかかった。
「売り上げを上げるためにメニューを提案したら職人さんが「やりたいならお前がやってみろ」と言われて、こちらも意地になって『明日から僕がやる』と。一年近く一人でやっていた時に「手伝おうか?」と言われた時は嬉しかったですね」ラーメンは広島時代から基本的な設計は変わっていない。
しかし餃子の野菜を絞った汁を捨てていたら、常連客に「身体に良いのに勿体ない」と言われ、ラーメンのスープに加えるようになった。さらに十年前からは製麺所の麺から自家製麺へと切り替えた。
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「ラーメンは常に進化させたいと思っています。野菜汁を入れることでさらに味が深くなりましたし、麺もスープに合う麺を作ってみたくなりました」
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店を継ぐつもりのなかった山肩さんも、気がつけば四半世紀厨房に立ち、今では三人の息子さんも一緒に働くようになった。
「大変な仕事なので反対もしたのですが、やは嬉しさもありますよね。いつかは息子たちに店を任せて、違った世界も見てみたいです」
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■取材を終えて
この店に来なければ中洲の夜は終わらない
私が初めてこの店に来たのはもう20年以上前になるでしょうか。最初は地元の人に連れてきて貰っていたのが、いつしかこの店に来なければどうにも中洲の夜が締まらない身体になってしまいました。通い始めた当初は「東京の人間が博多にまで来て、わざわざ醤油ラーメンを食べることもなかろう」という思いもあり、頼むのはいつも餃子と焼き飯でラーメンは全く食べていませんでした。しかしある時に食べてみたらその美味しさにビックリ。いわゆる町中華で出されているラーメンとは気合の入り方が違うと感じました。また美味しいラーメンを知ったという嬉しさと、また深夜に食べたいものが増えてしまった切なさが入り混じっています。
ラーメン評論家
山路力也 / Rikiya Yamaji
テレビ・雑誌・ウェブなど様々な 媒体で情報発信するかたわら、 ラーメン店のプロデュースなど、 その活動は多岐にわたる。「福岡ラーメン通信」でも情報発信中
掲載の内容は取材時のものです。取材日と記事公開日は異なる場合があり、メニューや価格、営業時間、定休日など取材時と異なる場合がありますので、事前に公式HPやお問い合わせにてご確認をお願いします。
王餃子
【所】福岡市博多区中洲2-5-9三田ビル1階
【☎】092-291-2249
【営】17:30~翌2:30
【休】不定
【席】30席
【P】なし
カード/不可