GROWING FUKUOKA | 福岡の企業と未来　『南国フルーツ株式会社』

2024年12月20日 公開

南国フルーツ株式会社

戦火をもくぐり抜けてきた
フルーツヘの情熱

インタビューを行なったのは、2024年3月にオープンした『南国フルーツパーラー』のテラス席。大きな窓を備えた店内とともに、警固神社の緑を間近に楽しむことができるオアシス的空間は、瑞々しくカラフルな旬のフルーツを堪能するのにこの上ない場所。すでに幅広い世代に親しまれている。「まもなくすると、福岡県産の『あまおう』を使ったスイーツもメニューに登場します。今年も多くの方に楽しんでいただけたら嬉しいですね」と、同店を運営する南国フルーツ株式会社の中尾社長。

他にも、『TOKIO』や『キャンベル・アーリ—』といったプランドで、フル—ツが主役の飲食店を展開してきた同社。業界内ではいち早く、福岡県産のイチゴ『あまおう』や、宮崎県産のマンゴー『太陽のタマゴ』など、フル—ツの品種・銘柄を全面に押し出したメニューをリリースしてきたことでも知られるが、実は創業から90余年、九州・山口一円を商圏に、3000品種以上のフルーツを紹介してきた総合商社である。

創業者の野田時雄氏は、中尾社長の祖父にあたる。1938年に天神の公設市場で食料品店を開業し、第二次世界大戦中には福岡大空襲で被災しながらも、被災した翌日から移転して営業、戦後3年で果実卸売店を発足。同時に岩田屋への出店も果たした。「祖父は私が小学6年生の頃に亡くなりましたので、どんな人物だったかはっきりとした記憶はないのですが、商才は非常にあったようですね。その後、久留米のぶどう農家に育った父が母と一緒になり、昭和37年、バナナの輸入自由化が始まったことを機に、その加工部門として南国フルーツ株式会社を設立しました。父もまた商売に情熱的で、83歳の現在も会長という形で会社に関わってくれています。私の跡取りとしての自覚ですか・・・大いにありましたね。学校の三者面談で母は、先生と私の前で、『この子はあとを継ぐので大学は受からなくて結構です』と宣言していたくらいですから（笑）」。

そんな中尾社長だったが、大学に進学し、卒業後は京都へ。流通大手グループ企業で小売や飲食部門に携わり、1993年に南国フルーツに入社した。入社後は、「九州山口で一番の品揃え」をスローガンに国内外を飛び回り、世界の青果に触れた。「ミカン、リンゴ、バナナ、キウイ、アボカド・・・当然のことながら、仕入れた商品の全てに愛着があります。だからこそ、長い時間かけて育てられ、数日から数カ月かけて福岡に到着するにもかかわらず、店頭でお客様にご紹介できるのはわずか数日というフルーツたちをどうしたら多くのお客様に楽しんでいただけるか、常に考え続けてきました」。

様々なチャンネルを展開し
フルーツの魅力を多くの人へ

その思いがジューススタンドや飲食店の運営へと繋がっていくのだが、近年は通信販売にも力を入れているという。「例えばふるさと納税や弊社の頒布会などです。近年は、気候の変化などで旬の時期がわかりにくくなっていると思いますが、通信販売であれば私たちプロが旬を見極めた商品を直接お手元にお届けできるので非常に喜ばれています」。

”ベストな状態“と言えば、南国フルーツ設立のきっかけになったバナナに関して同社は全国でも数少ない、差圧式バナナ加工室を所有する企業でもある。店で目にするバナナは黄色の皮を纏っているが、これは、元々青い状態で輸入されたバナナを適切に保存し、熟成させたもの。私たちがおいしいバナナを口にすることができるのは、こうした企業努力の賜物なのだ。

また2017年からは、久留米市の耕作放棄地を活用し、スマート農法を取り入れたイチゴ栽培もスタート。南国フルーツは今や、畑から食卓に至るまで、フルーツの全てに関わる企業として成長し続けている。

「3代にわたり、『フルーツのチカラで笑顔を運ぼう』という思いを持って商売を続けてきました。大変なこともありましたが、私自身、季節ごとに次々と新しいスターが登場するフルーツのファンであり、この道に飽きることがありません。これからも情熱を持ってフルーツ市場の拡大に力を注ぎたいと思っています」と、中尾社長。

現在は、フルーツを使った”新しい博多土産“も開発中だという。2025年春頃になるというお披露目の日を楽しみに待ちたい。