【インタビュー】映画『泥棒役者』 西田征史監督
《STORY》
自分の過去を知る男(宮川大輔)に脅されて、渋々豪邸に盗みに入ったはじめ(丸山隆平)。そこへ押し掛けてきたセールスマン(ユースケ・サンタマリア)には家主に、家主の絵本作家(市村正親)には新しい編集者にと、遭遇する度に都合良く勘違いされていく。男がクローゼットに潜んだまま、人が現れる度にその場を取り繕おうと、勘違いされた役回りを演じて脱出を図ろうとするはじめは、果たして無事にこの家から出られるのか…!?
グランドホテル形式で展開する『泥棒役者』は、西田征史監督が’06年に自ら作・演出した舞台を映画用に書き直したオリジナル作品。
主人公・はじめの恋人、美沙(高畑充希)や、絵本作家の隣人のユーチューバー(片桐仁)など、映画オリジナルの役も加えられ、物語にさらに奥行きが加えられている。張りまくった伏線がきれいに回収されていくのが爽快で、しかもいい方向で終結していく。「こんな脚本を書く人はきっといい人に違いない! 」と思える作品だ。
西田監督に話を聞く機会をいただいたので、観賞後の印象をそのまま監督にぶつけてみたら…。
「人柄出ちゃったんですかね〜?」とニッコリ。「自分で言うのもアレなんですけど…」と、謙遜するので、どれだけ人を幸せにする作品なのか、大きなお世話だけれど、作者に向かって力説してみた。
―エンドロールの途中のおまけ映像に、あの2人が登場して驚きました!(敢えて教えないので、映画館で確かめてね! だから、エンドロールが始まっても、席を立たないで、おまけ映像に誰が登場するか、その目で観てね!)
西田:しかもあの時の衣裳で!
―お忙しいお2人なのに、すごいですね!
西田:自分だってわからなくてもいいよって言ってくれて、朝方の撮影にちょっと来てくれました。
―どういういきさつで出ていただけることになったんですか?
西田:僕が2作目を撮るっていう時に、宮川大輔さんが現場で一緒になった彼に言ってくれたんです。「あれ? オレ、なんも言われないって言ってたよ〜」って大輔さんから聞いたので、「それなら何か出てもらえます?」って聞いたら「なんでもやります」って。
―ステキですね。丸山さんとは舞台でお仕事をご一緒されてるそうですが、役者としての魅力は?
西田:ナチュラルさももちろんですが、我が強くないというか、「自分じゃなくて作品を観てくれ」っていう意識で、作品の中に染まろうとしてくれるスタンスが素晴らしいです。
―いい人がにじみ出てますね。
西田:うれしいです。彼の人間性が映画に出てますよね。
―映像化するにあたって難しかったところ、映画だからこそ、ここを観てほしいというところはありますか?
西田:屋敷の中で繰り広げられるので、息苦しさとか閉塞感を感じさせないように作ることが自分の中での課題だったのですが、時折、高畑充希さん演じる美沙の目線を入れたり、外のシーンを挟み込むことで、開放感を感じられるようにしたり、アニメーションを入れることで印象を変えてみたり。一番の工夫は、壁紙の色を変えることで、シーンごとに違う雰囲気を出せるようにしました。
―なるほど! 確かに色の印象って大きいですね。舞台と映像では組み立て方も演出の仕方も違うと思いますが大変じゃなかったですか?
西田:舞台版を作ってから10年たってるので、第三者的な目線で大胆に手を入れることができました。
―ご自身の中で、特別な作品ということですが、どういった意味で特別ですか?
西田:2006年は、まだこれだけでは食べて行けない状況でしたが、この作品をきっかけにいろんなオファーをいただけるようになりまして。自分の人生が開けていったきっかけの作品だったのです。僕、元々芸人でそのころに、20代前半でお芝居の本を書いて仲間と舞台をやり始めたら、自分がやりたいことはこの方向だな、となったんです。
—ネタを書いていたんですね!だからお話しもお上手なんですね。
西田:いやいやそんなそんな。でも、それこそ、芸人時代にラーメンズに出会ったのですが、芸人を辞めて舞台をやっていた時、ラーメンズの2人が舞台をするっていう時に呼んでもらいまして。その舞台を観たプロデューサーさんが役者として声をかけてくれて、で、僕が脚本を書いてるって知ってコンペに参加してみないか?と誘ってもらったのがて、自分が書いたシナリオが選ばれたのが、『ガチ☆ボーイ』(’08)だったんです。
—それは「ザ・トントン拍子」!
西田:本当にありがたいです。人間関係が連なって…不思議な縁ですね〜。
—縁も運もあるかもしれませんが、何よりも実力がなければコンペでも勝てませんから!! この作品も張り巡らせた伏線を、しかも映画バージョンはさらに追加した回収まであって、頭が良くなきゃ書けない脚本なんで、なんて凄い!って思いました。
西田:それでいて優しさが出ちゃって(笑)
—出ちゃってますね。観終わって、きっと監督はいい人に違いないって思えますし。
西田:あははは。それ聞いちゃうと悪いことできないですね。
—話は変わりますが、あの、ベテラン俳優の市村正親さんが、裸エプロン!
西田:いやぁ、やっていただけるかなぁ?と思ってたけど、やってくれました(笑)。事務所に止められるかな?って思ったら、マネージャーさんも、いっちゃえ、いっちゃえ!って感じで。衣装合わせでエプロンを10パターンくらいあててもらったのですが、結局一番短いエプロンが採用になりました。
—一番露出の多いエプロンを着てくれたんですね。
西田:サービス精神が旺盛な方なんです。
—それに、ユースケ・サンタマリアさんが演じるセールスマンが、母親と電話で話すシーン、彼は九州出身の設定ですね!?
西田:あ、わかっていただけました? ユースケさんが大分出身というのもあって、どこかで郷土色を出したいと思ってまして。お母さん役の声の人のオーディションをやる時に、本当に方言をしゃべれる人という方をキャスティングしたら、その方も九州の方で。
—九州の人には耳なじみがある言葉なので、グンと親近感が出ますね。出ている俳優さんが個性が強くて、現場が濃そうって思いました。
西田:それこそ、丸山くんがあんまりしゃべらないくらい。皆さんが盛り上げてくださって。市村さんとユースケさんがワ〜っとなっているのを丸山くんが見ている感じでした。空気感はとっても良かったです。
—帰国子女の編集者・奥江里子役の石橋杏奈さんは福岡出身ですね。
西田:彼女はすごく耳がいいんですよ。英語の先生についてもらったんですが、意味はわからなくても発音はものすごくいい。
—高畑さんといい、石橋さんといい、魅力的な女優さんです。
西田:うれしい。そうなんですよ。宮川大輔さんもいい人です。クランク・インの前に、丸山くんの部屋で本読みをしたのですが、市村さんと大輔さんも来てくれることになって。
—!!!
西田:楽しい夜でしたね。そういう積み重ねですね。大げさにいうと、映画って、はじめましてって挨拶して、はい、次はキスシーンっていうくらいのスピードと距離感ですが、そういうのを撮影前に埋めたいなって思ってました。丸山くんは毎週生放送があって大阪からのお土産を差し入れしてくれたのですが、たこ焼きせんべいとかジャンク系が多くて。でもうちは年齢層が高いから、「ありがとう、ありがとう!」っていいながら皆さんあまり手を伸ばさない。差し入れが残ってて、ちょっとせつなかったです(笑)。
—その積み重ねのお陰でしょうか。窓越しに素晴らしい笑顔が見られるシーンがとてもステキでした。
西田:あそこがキモだなって思っていて本気で笑っている顔を撮りたくて、役者さん同士のやり取りで、どうにか笑顔を引き出そうと思って、あの笑顔が出るまで粘りました。市村さんがとっておきの話を披露して、体を張ってやってくれました。あれ撮ったのは夜中だったんですけどね。
—皆さんの一体感とキラキラした笑顔が本当にステキなシーンです。
西田:うれしいな〜。それがまさに撮りたかったんです!それが片桐さん演じるユーチューバーのルサンチマン(=妬み)に火を付ける(笑)。
—そのステキなシーンも皆さんの協力で美しく撮れて、なんて幸せな作品でしょう
西田:恵まれてますね!空気感はとっても良かったです。
—だからですかね? 映画館を出た後の気持ちが、とってもいい感じの映画です。
西田:ありがとうございます。まさに、そういう映画にしたかったんです。安心して観に来てください!舞台が好きな人でも、映画好きでも、群像劇として楽しんでもらえると思います。映画作りって青春だなって思いました。エンドロール観て毎回ジーンと来るんですよ。これだけ多くの人が関わってくれたんだな〜って。こうしてキャペーンで全国を回って、そこでも多くの方に関わっていただいて、みんなで作って、みんなで動いて…。チーム感がいいですね。
—監督を中心にそういった動きができた幸せな作品なんですね。
西田:いい人が滲み出ちゃったかな(笑)。
西田監督をはじめ、皆さんのいい人ぶりが滲み出ちゃっている、映画『泥棒役者』は11月18日(土)よりT・ジョイ博多他にて全国公開!