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【嘉麻市】嘉麻を愛したクリエーターたち 絵本作家・石川えりこ

「絵本作りは、幼少期を掘り下げていくような感覚です」

 

画家だった祖父から譲り受けた画材道具が並ぶ作業台に向かうのは、旧稲築町で育ち、現在は神奈川県横浜市にアトリエを構える絵本作家の石川えりこさん。「祖父の膝に座って絵を描く作業を見たり、時には手伝ったり。家にはいつも画材の匂いがしていました」という彼女の日常には、当たり前のように「絵」があった。絵を描く仕事をすることも、早くに決めていたそうだ。

 

 

いろんなものをじっと観察することが好きだったという幼少期。「ある時、実家の押入れから小学生時代の通知表が出てきたんです。父が大事にしてたんですね。開くと”えりちゃんは、全然しゃべりません”と担任の先生のコメントが書かれてて。びっくりでした」。帰り道に田んぼのカエルを観察したり、教室で一人思いを巡らせたり。ただ好きなことに夢中だっただけなのに、大人は違った見方をしていたらしい。ともあれ、当時の出来事の一つひとつが、彼女の作品の根幹となっている。

 

自伝ではないが、自身の体験を基にした作品の数々。『あひる』は食と命の関係を伝える。『流木の家』は絵描きと流木の交流を描いたファンタジー

 

 

三井山野炭鉱の爆発事故を題材にした『ボタ山であそんだころ』は、子どもの思いやりや羞恥心、生きることに向き合い揺れ動く心、ボタ山すら遊び場にしてしまう溌剌とした姿を、鉛筆の濃淡と独特の歪みで大胆かつ繊細に表現している。当時の町並みや風景は「資料はまったく必要なかった」くらい鮮明に記憶しているほどだ。『かんけり』は、遊び場だった神社という小さな世界で、一人の女の子が友達のために強くなっていく姿を描く。だんだんと引き込まれる展開や構図は映画のワンシーンのようだ。

 

2019年6月に発刊した『こくん』の制作風景。主人公が強い意志を持ち困難を乗り越えていく姿と、友だちとの心の交流を描いたこの作品は、児童文学者村中季衣さんとの共作だ

 

 

石川さんにとって、絵本作りは「幼少期を掘り下げていく感覚」だという。美しい風景描写や、ちょっぴり切ないストーリーにも、人間の強さや逞しさを感じさせる心理描写は、幼少期の経験、観察眼と想像力があるからこそだ。現在、読売新聞の連載小説『ばあさんは15歳』(阿川佐和子作)の挿絵も制作中。毎朝どんな世界に連れ出してくれるのかも楽しみだ。

 

鉛筆で描くことへの思いを尋ねると「ただ描きやすいというだけですよ」と笑う。「描きたい」と思う気持ちがこの手を動かしている

 


PROFILE

 

絵本作家・石川えりこ

1955年生。旧岩崎小学校、稲築中学校、旧稲築高校、九州造形短期大学デザイン科卒業。広告代理店を経て、イラストレーターに。代表作『ボタ山であそんだころ』は、2015年度講談社出版文化賞絵本賞を受賞。「プラチスラヴァ世界絵本原画展」にも出品された。実家近くにあるめんくいていのファンである。

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