【インタビュー】Buzz72+・松隈ケンタ「ステージでしか表現できない空気感がロックにはあるから」
※この取材は福岡県の緊急事態宣言が発表される前に実施しました。
BiSHをはじめとした多数のアーティストのプロデュースを務める福岡出身のサウンドプロデューサー・作曲家の松隈ケンタが、かつてメンバー間の不和で活動休止となった自身のバンドを復活させた。現在はバンドマンからヒットメイカーとなった松隈の心情に起きた変化とは…。
ステージでしか表現できない空気感が
ロックにはあるから。
―バンドの再結成は松隈さんから呼びかけたそうですね。
松隈:一年半前に福岡に戻ってきて、バンドを発掘したり、スクールで育成をしたりという活動をする上で、自分がステージに立っていないと説得力ないし、「昔はこうだった」とか言うのがだんだん嫌になってきて。「BiSHの松隈さんですよね」と言ってくれる人もたくさんいるんですけど、福岡では「Buzz72+でしたよね」と言われることが結構多くて、「こんなに愛されてたんだ」って感じたんですよね。再結成の決め手は『ボヘミアン・ラプソディ』で。うちもボーカルが脱退しているので、「博多版ボヘミアン・ラプソディかなぁ」ってあの映画を観た後に思ってしまって、それで勇気を出して13年ぶりぐらいにボーカルに連絡を取りました。
―プロデュースワークなどクリエイターとしての活動が、アーティストとしての自分に与えた影響は?
松隈:再結成できた一つの理由でもあるんですけど、なんでバンドがダメになったか思い返したら、曲を作っている僕もボーカルに「こういう感じで歌ってほしい」とか上手く伝えきれてなかったんですよ。今はアイドルとか歌えない女の子たちを自分の理想通り歌わせる仕事なので、「今の技術があれば彼を気持ちよく歌わせることができるのかな」って。考えれば考えるほどボーカルのハル(井上)はアイドルの女の子みたいな奴でした。繊細で、褒めたら伸びるんです(笑)。当時は「ロックバンドのボーカルがそんなんで大丈夫か!」と喧嘩していて。
―久々に再会した時の印象は?
松隈:ハルは喉が潰れちゃったりバンドを止めていた部分もあって、彼なりに反省してたみたいですね。その後は技術的なことを磨いて、今はボイトレの先生をやってるんですけど、「若い子たちに同じ目にあってほしくない」という気持ちだと聞いて、成長してるなと。僕も福岡で活動しているバンドマンたちに同じ気持ちなんです。この感じならお互い嫌な関係にはならないんじゃないかなと思いました。
―今回のミニアルバムはとてもフレッシュな印象ですが、再録された当時の楽曲はどのように感じましたか?
松隈:面白いのが、自分のバンドを15年後に自分でプロデュースするという感覚なんですよ。当時の音源を聴いて自分たちのダメなところとか、「当時のCHOKKAKUさんのプロデュースはこんな風にやってたんだ」って同業者の目線で感じる部分も多くて。サウンドプロデューサーとして当時のCHOKKAKUさんと戦っているような気持ちがあったと思います。現在は僕はメジャーで仕事をしているので、どこか大人に相談すればもっと違う形でデビューすると思うんですけど、あえて自主制作でやったんです。凄く楽しいですね。再始動後は「4人がやりたいと言ったことしかやらない」というルールを決めたんですよ。
―松隈さんが10年前に中川翔子さんに楽曲提供した『フライングヒューマノイド』が今作でセルフカバーされていますが、「十年先の未来が見える魔法があったらな」といった言葉など、歌詞を読むと今のバンドの状況を示唆しているようにも思えます。
松隈:繋がっているでしょう。中川さんに楽曲提供した時期にバンドがなくなって、その頃の不安な思いで歌詞を書いていたんです。今回、男のハルが歌っても面白いものになったと思います。
―アーティストとしての松隈さんの姿を新鮮に感じる若いファンも多そうです。
松隈:ステージでしか表現できない空気感がロックにはあると思うんですけど、僕にはバンドという戻る場所があったんです。だったらやったほうがいいなと思って。ただ、ウチのベースとドラムとか周りの方が驚いていて。2人はBiSHのアイナが新ボーカルになると思っていたそうです(笑)。
―バンドの今後の展望は?
松隈:ガツガツと活動はしないと思いますけど、無理のないペースで長くライヴをやっていきたいですね。
【プロフィール】バズセブンツー/BiSH、豆柴の大群、GANG PARADE、EMPiREなど数々のアーティストのサウンドプロデュースを行なう福岡出身の松隈ケンタが率いるロックバンド。’00年に井上マサハル(vo)、松隈ケンタ(g)、北島ノリヒロ(b)、轟タカシ(ds)により結成され、’05年にメジャーデビュー。’07年に井上が脱退し事実上の解散状態に。今年再結成を果たし、故郷福岡での復活イベントはチケット即完を記録した。
RELEASE
◎発売中
Mini Album『13』
●SCRAMBLE RECORDS/2200円