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【インタビュー】映画『空に住む』青山真治監督…「自己矛盾を抱えながら人は生きているんじゃないか」

『EUREKA ユリイカ』(’00)をはじめ、数々の作品で世界的な評価を得る北九州市出身の青山真治監督が7年ぶりの新作を発表した。EXILEや三代目J SOUL BROTHERS from EXILE TRIBEといったメジャーアーティストの作詞を手掛ける作詞家・小竹正人による初の小説を原作とした、喪失感を抱えてある男性との逢瀬を重ねる一人の女性の物語だ。豪華出演陣と共にどこか孤独を抱えるキャラクターたちを描写した青山真治監督に話を聞いた。

 

人生のボタンを掛け違えたとしても、
現状を否定する必要はないんです

 

 

―映画化に当たって、小竹正人さんの原作のどこを抽出しようと思いましたか?

青山:原作者の小竹さんとお会いして話した時に、彼自身も大事にしているし、僕も一番痛烈に刺さったのは、猫のシーンなんですね。猫が死んでいく様を非常に克明に描写していて。それがこの物語にとってなんであるかはご覧になっていただければわかると思うんですが、人が死ぬということがあったり、人が生まれるということがあったり、一人の人間の人生が続いていく中で、その中心に猫の死を据えてその両側を描いていくと言えばいいのかな。かけがえのないものが亡くなるというのは人間だって猫だって同じだという感覚を持っていて、むしろ猫が死んでいくことに重きを置くことによって見えてくるなにかがあるんだとこの物語は言っている気がするんですよね。それをやれたことに満足しています。


―多部未華子さんの演じる直実や岸井ゆきのさんの演じる愛子、美村里江さんの演じる明日子など、映画の中では女性の感情の機微が描かれていましたが、監督としてはどんな気持ちで撮影されていたのでしょう?

青山:シナリオありきで、脚本家の池田千尋さんが今回参加しているんですけど、最初に池田さんとプロデューサーが作り上げていったものがまずあって、そこに僕が注文をつけていくような形でした。女性の目線ありきで池田さんが構築していた部分は大きいと思います。そこに男性の僕が入っていきましたが、まぁ、そんなに女性の機微がわかっていればもう少しモテてもいいかなと思うんですが、全然そんな兆候は見られないです(笑)。


―多部さんに直実を演じていただくにあたって、なにか話をされたんでしょうか?

青山:ほとんど喋ってないんですよ。シナリオに書いてある通りのことしかしていないんですよね。


―スター俳優の時戸を演じる岩田剛典さんの自然な演技も印象的でした。

青山:この役が岩田くんにフィットしていたとすれば、それは岩田くんが作り上げたものだと思います。僕は岩田くんとも特になにも話していないので(笑)。


―映画の中の女性たちはどこか生きづらさや虚無感を抱えて日々を過ごしていますね

青山:公開前にして初めて気づいたことがあって、偉そうなことは言えませんが、基本的に映画を作ったり小説を書いたりすることは、多かれ少なかれ今の世の中から多少影響を受けながら作っているんですよね。女性の生きづらさについては、MeToo運動など女性に特化した問題がこの5、6年でワッと出てきましたが、そういったことと作っている映画も繋がりが当然出てきていますし、そうであったほうが健全だと思っています。


―主人公の直実は外野から見るとタワーマンションの高層に住むなど恵まれた生活をしていますが、本人は心から満たされていません。監督は“理想的な暮らし”とはどんなものだと思いますか?

青山:考えたこともなかったな。多分直実に対して「素敵!」とか「憧れる!」と言う人たちも心からそう思ってないと思うんですよ。一方で、満たされないような顔をしている直実も案外現状を肯定している気がします。不満はあったとしても、「とりあえずこれを維持する方が大事」だと。そうしないと生きていけないからというのも含めて。多少不満はあっても、とりあえず現状維持だと言わざるを得ない社会に生きているんだと思います。そういった人たちが人生のボタンを掛け違えたとしても、現状を否定する必要はないんです。…それが我々作り手側の一番のメッセージだったのかなあ、もしかすると。どこまでが嘘でどこまでが本当かわからないという自己矛盾を抱えながら人は生きているんじゃないかと。そういった台詞を散りばめていこうという意識はありました。特に時戸については、常に周りを試しているというか、そうやって直実が挑発されて、さらに周囲に連鎖していくということが起きればいいなと考えていました。そこで映画がどうなっていくのか、結論は重視しなくてもいいと思っていたんです。

 

■青山真治
’64年生まれ。福岡県北九州市出身。’96年、福岡県の門司港を舞台にした『Helpless』で長編映画デビュー。’00年には監督作品『EUREKA ユリイカ』で第53回カンヌ国際映画祭コンペティション部門に招待され、国際批評家連盟とエキュメニック賞のW受賞を果たす。その後、『路地へ 中上健次の残したフィルム』(’00)、『月の砂漠』(’01)、『私立探偵濱マイク・名前のない森』(’02)、『レイクサイド マーダーケース』(’04)、『エリ・エリ・レマ・サバクタニ』(’05)、『サッド ヴァケイション』(’07)、『共喰い』(’13)など監督作多数。

 

■映画『空に住む』/上映中

 

 

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