【レポートvol.1】過去を振り返るのではなく、未来をデザインする『 直方市の商店街を舞台に新たな「物語」がはじまる!』
JR直方駅から徒歩5分。ここは、福岡県直方市の中心市街地にあるアーケード商店街『ふるまち通り』。午後7時。ほとんどの店が閉店した薄暗い商店街の空き店舗に明かりが灯り、とあるイベントが始まろうとしていた。
会場となった「ふるまち通り」商店街
『不動産オーナー向け 資産活用セミナー』と題されたこのイベントは、直方市の中心市街地活性化を目指して、有休不動産を活用した起業・創業を支援する講座『エンボるスクール』の一環で行われたもの。
直方市には、古町、須崎町、明治町、殿町と4つのアーケード商店街があるが、地方都市にある商店街の多くがそうであるように、いわゆるシャッター商店街と化しており、空き店舗率は34・8%に及ぶ(2019年度調べ)。
トークイベントは空き店舗で行われた
そんな状況を打破しようとスタートした『エンボるスクール』は、『ふるまち通り』にオープンしたレンタルスペース&バー『Bouton』で始まった取り組みで、第一回を2018年に実施。商店街で「なにかやりたい」と集まった参加者の思いを具現化するため、まちづくりやビジネス支援などの専門家を招いて、月に1回10ヶ月に渡って講座を行った。
元手芸店をリノベしてオープンした『Bouton』
スクールで発案された企画のいくつかは、夜の商店街をキャンドルでライトアップする『路地キャン』イベントや、商店街の店舗で眠っていた「ピアノなどの楽器」を誰もが自由に演奏できるようMAP化した『のおがた音のとおりまち』などの取り組みに加え、Boutonの2階にコワーキングスペース『SwitcH』がオープンするなど、実際に成果をあげている。
第二回となる2020年のスクールは直方市が支援となり、『株式会社まちづくり直方(谷 弥寿彦・代表取締役社長)』が委託を受け、第一回のスクールでもメンター(指導・助言役)を務めた、北九州市の建築設計事務所『タムタムデザイン』の代表・田村晟一朗さんなどの協力を得て実施にこぎつけた。
株式会社タムタムデザインの代表・田村晟一朗さん
北九州市を拠点に、全国各地でリノベーションを通じたまちづくりを実践する建築家の田村さんは、「まちづくりはプレーヤーだけでなく、実現するための「場」を提供する不動産オーナーの意識改革が必要」と語る。
この日『不動産オーナー向け 資産活用セミナー』に参加したのは、商店街などに空店舗や空き家を持つ、不動産オーナーを中心とした市民約20名。会場では、頷いたりメモを取ったりしながら、熱心に話を聞いていた。
講師を勤めたのは田村さんと、宮崎県日南市の油津商店街再生事業などで知られる、木藤亮太さん。第一部では田村さんが、遊休不動産を所有することのデメリットを中心に語り、第二部では木藤さんが、油津商店街での具体例を上げながら、遊休不動産の活用がまちに与える影響について語った。
なかでも印象的だったのは田村さんによる「まちに明かりを灯すこと」の重要性について。所有しているだけで税金が発生し、不審火や倒壊の危険性を孕む不動産はもはや「負動産」。負動産ばかりのエリアに出店したい人はいない。だからこそ、まずは空き店舗に灯りを灯すことが大切だと田村さんは語る。
また、木藤さんの話にも目から鱗が落ちた。これから人口が減少していくなかで、商店街にかつての「賑わい」は戻らない。「商店街は再生しない」と言うのだ。では何のために商店街を活性化させるのか。木藤さんは人々の心に「思い出」をつくるためだと語る。
株式会社ホーホゥの代表・木藤亮太さん
まちで過ごした「思い出」が、人々と地域を結びつけ、例えば就職や進学で一時的にまちを離れたとしても、将来戻ってくるきっかけをつくるのではないか。さらに「住む」だけでなく「暮らす人」を増やすことが重要だと木藤さんは言う。主体性を持ち能動的にまちに関わる人を増やすことが、商店街の未来、地方都市の未来をつくる。
まちのアンカーとして機能しているBouton
Boutonのそばに『四宮の成金饅頭』を受け継ぐ店舗ができていた
「シャッター商店街」のひとつだった日南市の油津商店街は、木藤さんが中心となって、IT企業やレンタルスペース、保育園など、いわゆる「商店」ではない様々な業種を20店舗以上誘致し「新しい商店街」のあり方を提示して国や各地で多大な評価を受けた。
過去を振り返るのではなく、未来をデザインする。まちの文化や歴史を大切にしながら、いまの時代の「新しい商店街」をつくる。それはすごく現実的で、夢のある話だ。
午後7時に始まったイベントが終了したのは9時すぎ。はじまる前は空き店舗が並ぶ寂しいシャッター通りに見えていた商店街が、不思議と、夢を叶える可能性を秘めた場所に見えた気がした。
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ふくおかナビでは、今回のトークイベントを含め、9月17日〜11月26日の全6回に渡って実施される『エンボるスクール2020』の現場を取材し、数回にわけてレポートを実施。今後の直方のまちに注目あれ!