【インタビュー】映画『ペンギン・ハイウェイ』石田祐康監督&北香那さん
取材・文・撮影/福島大祐(編集部)
『夜は短し歩けよ乙女』や『有頂天家族』など、数々のベストセラーで知られる森見登美彦の『ペンギン・ハイウェイ』が、気鋭のアニメーションスタジオ・スタジオコロリドによりアニメ映画化される。
—スタジオ名の“コロリド”はポルトガル語で「色彩に富む」という意味だそうですね。コロリドの方針やスタジオとして目指すのはどんなところでしょうか。
監督:我々の方針で「深夜のテレビシリーズものをやらない」というものがありまして、あくまで劇場の長編作品であったりYouTube用の短編アニメーションであったりCMであったり…というのが中心で、そのコンセプト自体が今まであまりなかったアニメ制作会社の姿ですね。アニメへの意識が企業のCMに使われるぐらいの浸透率になってきたので、最近の需要に応えている部分でもあります。
—映画の興行収入のランキングにもアニメ作品は毎週のようにランクインしていて、その裾野は子どもから大人までいっそう広がっているように思えますが、それらを実感することはありますか?
監督:コロリドで作っている作品の受け手の人たちは以前より広くなっているなという実感はあります。自分は携わっていないですけど、“パズドラ”のCMを作った時があって、あの頃プライベートで自転車を買いに行った時にその店の主人から「CM見たよ」と声を掛けられて。「絵を描いてよ」と言われて、その店の主人の似顔絵を描いたことがありました(笑)。そういうことは深夜などのテレビシリーズを作っている会社ではあまり起きないことで、自転車屋さんの主人や地元の親戚のおじちゃん、おばちゃんとにも浸透してくれているのかな?という感触はありましたね。
—ちなみに、お2人の思い入れのあるアニメはなんですか?
北:世代的にも子どもの頃にジブリが流行ったので、『千と千尋の神隠し』とか『猫の恩返し』ですね。中でも『千と千尋〜』が一番好きで、劇中のセリフを全部暗記したんですよ、好きすぎて(笑)。女優さんになりたいという夢もあったので、そういったことをおぼえることにハマってました。
—全部おぼえたというのは、1人全役ですか?
北:全役です(笑)。
監督:当時は小学生ぐらい?
北:保育園のたぶん年長さんぐらいの時に凄く見てたって親が言っていましたね、「もう止めて!」ってぐらい(笑)。『あの花(あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。)』も好きですよ。高校生の時に友だちから「超いいよ!」って言われて見たのがきっかけで、聖地巡礼で秩父まで行きました。
—かなり熱心なファンですね。監督は、影響を受けた作品はなんでしょう?
監督:高校の時に『交響詩篇エウレカセブン』というのがあって。ロボットアニメなんですが、ロボットアニメの枠を超えていて凄く良かったですね。ボーイ・ミーツ・ガールな感じも好きでしたし、キャラクターの絵描きとして琴線に触れるような良い絵作りをしているんですよね。僕たちの世代の人たちは大概見ていて、「『エウレカセブン』本当に良かったよね」と言って絵を真似しているところもあるんです。それこそ、『千と千尋〜』に関わっていたスタッフが『エウレカセブン』をやっていたりしてるんですよ。高校の時はもう圧倒的に僕たちにとってエポックメイキングで、かつ、「アニメ作りたい!」と思った理由の一つに入っていますね。
—かなりの影響を受けていると。さて、『ペンギン・ハイウェイ』についてお聞きしたいんですが、最初に原作で惹かれた部分はどういったところですか?
監督:主人公が少年というのがやっぱり好きで。少年が這いつくばって頑張っているのが好きなんですね。だから『エウレカセブン』にも惚れたんでしょうし、ちょっとわかりづらい少年ではあるけれど主人公のアオヤマ君にも惚れたんですよね。アオヤマ君はちょっと特殊だけど見どころが絶えない少年ですから、他の作品とは被らない、この作品ならではの良さを描けるんじゃないかという予感はありました。あと、SFが好きなんですよ。『ペンギン・ハイウェイ』はわかりやすくはないですけれど、根底にはそれが感じられて、映画の終盤にはそこに類する不思議な場所に行ってしまうという。その根底はファンタジーな世界というよりも、もう少し宇宙的な、それこそ相対性理論だとかそういう数学的なものにまつわるものが根っこにはある世界観という、ロジカルな部分に惹かれるところがありましたね。違う見方で言うと、自分もなんだかんだ中二病だったんですよ(笑)。中学生や高校生の頃に好きだった凄く濃いSFだとかロボットだとか能力モノだとか、そういうのがカッコいいと思う時期があって。だけど、その「カッコいい」という中二病な気持ちだけで作ってしまって、今の自分が大人になった時にダサく思えてくるのが嫌なんですよ。その点で『ペンギン・ハイウェイ』は面白いバランスを持っていて、根底にはそれに近しいものは感じられるんですけど、ちょっとやっぱり違うんですよね。表層の描き方が日常で、あくまでのんきで可愛らしく描かれている。SF的要素が嫌味ったらしくなくて、子どもの純粋な空想力の範囲として描けるから良かったんです。北さんは中二病の時期ありました?
北:私は中二病というか、妙にボーカロイドにハマった時期がありました。ボーカロイドと、ニコ生! 「冷めてる曲聴いてる自分、カッコいい」みたいな時期はありましたけど、今思い出すと恥ずかしいし、戻りたくない(笑)。これは中3の時ですね。
—北さんは本作で初声優ですが、アオヤマ君を演じる上でなにを心がけました?
北:やっぱり普通の小学生ではないので、まずは滑舌にとても気をつけましたね。私は元々滑舌が良いわけではなかったので、そこを凄く練習しました。あとはやっぱり声質ですね。普通の小学4年生だとアオヤマ君ほど落ち着いてないですよね。もう少しワチャワチャした感じなんですけど、監督が「小学4年生ではなくて小学6年生だと思って声を当ててほしい」とおっしゃったので、私がイメージしていたトーンより少し低くして、大人っぽく落ち着きのある喋り方を、と考えました。
—他のキャストの皆さんも豪華な方ばかりです。
北:声をみんなで一斉に録っているわけではなくて一人ずつ録ったんですが、蒼井優さんと一度だけ声を録る場面でお会いして、一緒にやらせていただいたことがありました。蒼井さんはたくさんの経験を積んでいらっしゃるからいろんなことを教えてくださるのかな?と思ったんですけど、蒼井優さんを目の前にして私がすんごい緊張していたんですよ(笑)。その緊張が伝わってそれを和らげようとしてくれたのか、凄く気さくに話しかけていただいて、世間話をたくさんしました。楽しかった思い出があります。
—作品が完成して、蒼井優さん演じる“お姉さん”との掛け合いを見てどう思いました?
北:“お姉さん”の低音ボイスが本当にセクシーで、アオヤマ君ぐらいの男の子はもちろん「近づきたい!」と思うだろうなと(笑)。本当に包容力のある声で、聞けば聞くほどもっと聞きたくなるような、本当に素敵な声でした。
—アオヤマ君の“お姉さん”の胸への執着、描き込み具合も印象的でした。
監督:自分もさることながら、みんなきっと力を入れたんだと思います(笑)。アオヤマ君と“お姉さん”がカフェで向かい合っているシーンで、明らかなアオヤマ君目線で“お姉さん”の胸をどアップで映すカットがあって。そのカットは一回色も付けてひと通りあがったところで、そこでリテイクが出て「もうちょっと描き込もう」という話になりました(笑)。少しシワを足したり、影を足したり。それぐらいスタッフのこだわりが強かったんだと思います(笑)。
—最後に、この作品を通して伝えたいメッセージはどのようなことでしょうか。
北:こんなに鮮やかな色使いで、「キャピッとした映画なのかな?」と思われるかもしれませんが、実際は観れば観るほど深くていろんなモノが詰まっているんです。自分の過去を思い出して、昔の自分を愛しく感じて「あ〜、戻りたい」って思ったんです。観終わった後に全部が包まれた感じになって「明日から頑張ろう」って新しい気持ちになれたので、そんなふうに世界に入り込んで観ていただけるような作品になっていると思います。音とか、最後のエンディングの曲も凄く良いので、ぜひ劇場で観ていただきたいです。
監督:この作品が持っているバランスというのがなにを起点にしているかというと、やっぱりアオヤマ君というキャラクターが中心にいて。全てをアオヤマ君の気持ちやフィルターを通して観測されたものを僕たちが観ている、という作品になっているし、そのつもりで作りました。アオヤマ君の凄く純粋で淀みがなく、これからまだまだ世界を知らなくちゃいけない少年の視点…そうやって描かれている世界というのがとても好きで、それが描きたかったんですよね。ですから、その透明感を観てほしい。子ども時代の思い出だとか、夏休みのことだとかも、根底にあるクリアなフィルターも純粋に綺麗に描けたんじゃないかなと思いますし、きっと観る人にも届くんじゃないかなと思います。最近仕事で疲れているとか、学校で悩みごとがあるとか、心がクリアになりきれないことがあればぜひ観ていただきたいですね。僕自身はアオヤマ君を見習いたいと思いましたし、アオヤマ君のように純粋になりたい!と影響されてほしいとも思います。
■映画『ペンギン・ハイウェイ』8月17日(金)全国ロードショー
http://penguin-highway.com/