【福岡ラーメン物語 のぼせもん。|四十六杯目 大野城市白木原 MACLLO(マクロ)】
「何を足して、何を引くかが大事。ラーメン作りは科学だと思うんです。」
修業する必要はない。作り方にもルールはない。ただ美味しい一杯が作れればいい。ラーメンの世界は実にシンプルで公平だ。そして街中でなくてもそのラーメンを求めて人がやって来る。その人たちが美味しいと思えば、その評判がまた人を呼ぶ。ただ美味しい一杯がそこにあればいい。
MACLLO
店主 伊丹 英晃 (HIDEAKI ITAMI)
1978年、新潟県南蒲原郡田上町生まれ。ドライバー業から飲食業界へ転身。焼肉店で経験を積んだのちに、2019年餃子酒場として『MACLLO』を開業。2020年より二毛作で昼営業をラーメン専門に。
大野城市白木原。大通りから一本入った路地裏に洒脱な雰囲気の店がある。ここは創作料理と美味しいお酒が楽しめるダイニングバーだが、昼間はラーメン専門店へと変わる。そのラーメンは福岡ではあまり見かけない、背脂がたっぷり浮いた煮干しスープに手揉みした太縮れ麺。新潟県燕三条で愛されているご当地ラーメン「背脂煮干ラーメン」だ。
「元々ラーメンは出していたんです。しかしコロナになって夜営業だけでは厳しいなと。昼間も勝負出来るラーメンをもっと深掘りしてみようと思って、そこからラーメンを研究するようになりました」
店主の伊丹さん、通称「クロさん」は、トラックのドライバーをしていた。仕事を変える時に今までの仕事とは違う世界に飛び込みたいと思った。人と会話できる、人と接する仕事として飲食を選んだ。焼肉店に就職して飲食業の経験を積み、2019年に餃子をメインにした店として「MACLLO」をオープン。そこでは餃子の他に焼肉店時代に出していたものをブラッシュアップしたラーメンも出していた。
しかし、オープンして一年も経たずに新型コロナウイルスの流行。不要不急の外出自粛など、人々の生活様式が変わった中で、飲食店の中でも居酒屋など夜に利用される業態には厳しい状況となった。そこで昼にラーメンを出すことにした。
「ラーメンに関しては経験もない素人だったので、最初は動画を観て基本的な作り方は学んで、あとは独学で作っていきました。」
その時にたまたま動画で見かけたラーメンが背脂煮干しのラーメンだった。新潟出身のクロさんにとっては慣れ親しんだ故郷の味。MACLLOの看板メニューは燕三条の背脂煮干ラーメンに決まった。
「新潟そのままではなく福岡の人たちの好みに若干合わせました。本場よりも醤油ダレを弱めにしたり、鶏ガラではなく豚骨を使ったり、麺もやや細めにしました」
ラーメン修業経験のないクロさんだからこそ、ラーメンの常識にとらわれることなく自由にラーメンと向き合える。ラーメン作りにルールはない。ただ美味しい一杯さえ作れれば良いのだ。
「僕はラーメン職人でも料理人でもありません。ラーメンに限らずですが、料理は科学だと思っているんです。いかに旨味の層を重ねていくか、何を足して何を引けば良いのか。時間や手間をかければ良いというわけではありません。どうやったらその味に辿り着くのかを考えるのがとても楽しいです」
ラーメン職人ではないクロさんの作るラーメンが多くの人に愛されている。次はラーメン専門店をやって欲しい、という要望も強い。
「もしラーメン店をやるとしたら、自分は店に立たずに誰かを雇ってやるでしょうね。専門店だとラーメン食べるだけで終わっちゃうじゃないですか。僕が立つ店はお客さんと話が出来て、ゆっくりと過ごして貰える場所で在りたいんです」
「中華そば」(750円)/新潟燕三条のご当地ラーメンである「背脂煮干ラーメン」をベースにした看板メニュー。見た目はかなり濃厚ながら、すっきりとした味わいを楽しむことができる。背脂の甘味と煮干しの旨味が見事に調和したスープに手もみ麺が絡みまくる。
「和え玉」(200円)は味のついた替え玉。一杯のラーメンで味の変化を楽しんで欲しいという思いから生まれた。麺は人気製麺所『製麺屋慶史』に特注したオリジナルの太麺と細麺を、メニューに応じて使い分けている
「鉄板ひとくち餃子(10個)」(400円)/肉がたっぷり入った餡はしっかりと味がついているのでタレ無しで食べられる自慢の逸品
「タレかつ丼」(350円~)卵でとじずに出汁の香るタレに潜らせたカツ丼。新潟の知られざるご当地グルメ「タレカツ丼」も3種類のサイズから選んで食べられる
「ドロ煮干しそば」(850円)/深みのある鶏白湯スープにガツンと煮干しが効いたクセになる一杯。煮干しの苦味などを抑えて旨味だけを抽出してあるので見た目よりも食べやすい
『MACLLO』(マクロ)
住所 大野城市白木原1-3-6 アプリシェイツ1階
TEL 092-558-6196
営業時間 11:30~14:00/18:00~24:00
定休日 月曜
席数 8席
P なし
カード/不可
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【取材を終えて】
昼も夜も通いたくなる白木原の隠れ家
コロナによって夜営業の飲食店が苦戦する中、福岡でもランチにラーメンなどを出す居酒屋やレストランが増えてきました。どこも専門店顔負けのラーメンを出している中で、MACLLOのラーメンは存在感や完成度で圧倒的。新潟でも何度も食べているラーメンですが、まさか福岡でここまで本格的な燕三条ラーメンが食べられるとは思いませんでした。最初にランチでお邪魔してそのラーメンに魅せられて、後日ディナー営業にもお邪魔しましたが、夜もまたユニークかつ楽しいメニューがたくさんあって、しかもラーメンも食べられるのは実に魅力的。店主のクロさんは創意工夫の人なので、これから先さらにどんなラーメンやメニューを出してくれるのかがとても楽しみです。
ラーメン評論家 山路力也 (Rikiya Yamaji)
テレビ・雑誌・ウェブなど様々な媒体で情報発信するかたわら、ラーメン店のプロデュースなど、その活動は多岐にわたる。「福岡ラーメン通信」(fukuoka-ramen.themedia.jp)でも情報発信中