【インタビュー】ゴスペラーズ「世界には、ハーモニーが足りない。」それが僕たちが出した回答
取材・文/本田珠里(編集部)
撮影/内田達也
日本を代表するヴォーカルグループ、ゴスペラーズ。10月に発売されたアルバム『What The World Needs Now』では、18年前に彼らの代表曲『永遠(とわ)に』を手がけ、今や名トラックメイカー・プロデューサーとなったブライアン・マイケル・コックスとパトリック・J.Que・スミスと再びタッグを組んだ作品として話題となった。恒例のゴスペラーズ坂ツアーも始まったゴスペラーズのメンバー安岡 優さんと、酒井雄二さんがプロモーションで来福!
―ブライアンとJ.Que、歳月を超えてタッグを組むことになった経緯、また再会してお互い変化した部分は感じましたか?
安岡:前回、原点回帰で90’sのソウルミュージックにこだわって作ったアルバムをファンの皆さんが喜んでくれてるのをツアーをしながらすごく感じたんです。じゃあ次は自分たちが好きだったあの頃ではなくリアルタイムのコンテンポラリーなR&Bにしたいなと。その時、この16年間会えてないけど、その間にグラミーもいくつも取って活動し続けてるブライアンとJ.Queともう一回やることができないかなと思ってた矢先に彼らも日本での活動を増やして行きたいというタイミングだったので声をかけてみたら気持ちよく引き受けてくれて。最初の1週間で7曲も届くくらい(笑)。最後に会ったのはJ.Queは’02年『FRENZY』のアルバム制作以来で、ブライアンは『永遠に』以来18年振り。見た目は二人ともめっちゃヒゲ伸びて、J.Queはムキムキになって(笑)、でも喋ると昔のまま全く変わらず、お互い20代の頃に出会った部室感というか、本当に自分たちの好きな音楽を楽しいからやってるあの頃に戻って安心しました。
酒井:前回は妹尾 武さんが書いた『永遠に』という曲をR&Bテイストに仕上げるため、それに似合う服を仕入れに行くという感じだったのが、今回は2人が「ゴスペラーズにはこれがいいと思う」っていう曲をたくさん送ってきてくれた。つまりオートクチュールのような…その辺が違うのかなと。あと、少しこぼれ話をすると、今の音楽制作ってCo-Wright(コライト)つまり共作が主流な中、J.Queは業界のしがらみで少し疲れてたけど、そこから距離を置けるゴスペラーズの現場は純粋に音楽をやってる感じがすごくいいと言っていました。僕たちだけじゃなく世の中もまた変わっていたなという話ですね。
安岡:世界中のソングライターが会わないままメールベースで共作できる時代になったので、そういう意味では面と向かって音楽をやっているゴスペラーズの現場が素晴らしいんだと言ってくれましたね。
―私もブラックミュージックが大好きで『DAWN 〜夜明け〜』が収録されている『FRENZY』は愛聴していたので今回の再タッグは嬉しくて。先行シングルにもなった2曲、『ヒカリ』はそれこそ『永遠に』の流れを含むソウルフルなバラード、『In This Room』はビートの効いたまさに今のR&Bと全く違うテイストながら、いずれもゴスペラーズにしか出せない世界観だなと。
安岡:アルバムタイトルの『What The World Needs Now』は後から付けたんですが、僕らからの回答としては“世界に今、必要なもの”それがハーモニーだったんですね。聞くと、彼らも今アメリカのミュージックシーンの中でハーモニーを聴かせるグループがいなくて、そういう曲を書く需要がないらしく、今回僕たちに声をかけられて、やっと書ける!ということでサビの部分にハーモニーがしっかり乗った『ヒカリ』を作り上げてくれました。『In This Room』はJ.Queが中心となってコライトして、ジャンルすらもクロスオーバーする今の時代を象徴するコンテンポラリーなサウンドになっていますが、やはり僕ららしくコーラスをアレンジしてくれてます。実はサビのコーラス、すっごい複雑なんですけど、かっこいいんですよ。
―アルバムタイトルに対する回答のようなイントロとエピローグが印象的でした。
酒井:以前、新聞に「世界には、ハーモニーが足りない。」という意見広告を出して、このアルバムにそのテーマをまとめて、イントロでドーンとハモろうって村上が作ってきたんです。僕はB案としてコーラスグループが沢山いた時代のありがちな感じで作って出してみたら「これをアカペラにして、それでオッケー!できた!」と村上が言って、云わんとすることを同じとする短いスキャットでアルバム全体が挟まれる形になりました。「世界には●●が足りない」という言葉を僕の引き出しで開けた時、海外ミュージシャンが何組か曲の中でその言葉を使っていますが、だいたい続く言葉はLOVEなんです。英語のLOVEは相互理解、協調のような意味もありますが日本人に「愛だろ?」というと、どうしても色恋のことにしか伝わらない面がある。なので、ゴスペラーズの言葉でいうならハーモニーだなと。その方が和をもって尊しとなす日本人には話が早いんじゃないかと。’18年にもなって今だにこんなに手間暇のかかる、打ち合わせしないとハモれないような形で音楽をやっているということも含め、その意味を汲み取ってもらえればと思ったんです。僕らから言えることはこちらになります!と。
安岡:音楽用語としてのハーモニーではなく酒井さんの言ったような誰かと協調する…自分と他人が違うものとして受け入れ合うっていうことが世界に足りなくなってきてるんじゃないか、でも逆にいうと今の時代だからこそどんな違う人とも繋がれるチャンスであり、まさにそういう形から生まれた曲もあるんです。メールで全てやりとりできて、’02年の労力とは全く違います。そんな中、二人が直接東京のスタジオに来てゼロの状態から作った曲もあって、今の時代だからこそハーモニーの形だっていろんな可能性があるはずだと。僕らのアルバムを通してもっと自由にハーモニーというものを解釈してくれるといいなと思います。
―なるほど。今回は歌詞を見ていても日本人男性はなかなかこんな人いないよなあ…っていう濃厚で色んな愛の形が散りばめられてましたよね。
酒井:アメリカ文化では女性にひざまずくようなスタイルの曲もあるじゃないですか。収録曲の『DON’T LEAVE ME NOW』なんか、日本の文化で受け入れられるかなってくらいひどい男ですねって言われるっていう(笑)…。どこまでイケるかな〜と様子を伺いながら日本人には馴染みの少ない愛の表現を入れる試みは継続してます(笑)。
安岡:日本に“ごめんねソング”ってあんまりないですもんね(笑)。’00〜’02年にリアルタイムのR&Bを日本語で演るんだっていう、当時は僕らにとっても挑戦で試行錯誤しながらやっていた部分もあるんですが、その後の16年の歳月があって、ブライアンやJ.Queから君たちの日本語に関しては信用してるからタイトルや歌詩の内容を変えたかったら変えてもいい、全て任せると言ってくれたんです。逆に僕たちも彼らならここのリズムやフレーズを残したいはずだ、ここで韻を踏むのはマストだろうという流儀も分かっていたので、本当に自信を持って彼らにも聞いてもらえるものになったなと。
―今や大物プロデューサーとして世界で活躍する二人と直接的なやりとりができた作品というのは世界的にも貴重な作品じゃないかなと思います。
安岡:再会だからこそ成し得たもので、今回初めましてだったら絶対無理だと思いますね。
―恒例のゴスペラーズ坂ツアーについても伺いたいところですが今回も36都市40公演と、本当に毎年この本数はすごいなと(笑)。手応えはどうですか?特に今回は来年の25周年に向かってのツアーとなると思うんですが。
酒井:特筆事項としては前回のツアーからバンドを一新しました。長年一緒にやってきたバンドから若手に切り替えたんです。結果、フレッシュでエネルギッシュな空気で良かったんですが、今年また去年とは違う手触りというか…。ツアー2回目なのでチャレンジも増えて、今の音が多く詰まったこのアルバムの曲を生演奏するにあたって新しいバンドと新しいことに挑んでいるような…そういう手応えがあります。
安岡:ファンの方もこれだけラブソング濃度の高いアルバムで我々の決め球ばかりが揃っているので「酔わせてくれるんでしょ?今夜は」みたいな感じがあって(笑)、それを裏切らず満たせるようにと演ってます。来年の25周年も大事ですが、とりあえず今目の前にある1本1本のライヴを一生懸命やりたいですね。今回は初めていく街もあり、初めてゴスペラーズのライヴを見る方も増えると思うので、僕らの名刺代わりの曲はもちろん、想像以上のゴスペラーズを観てもらえるよう、1万回歌った曲でもその日がベストテイクと思って歌いたいと思ってます。
《リリース情報》
アルバム『What The World Needs Now』
発売中 Ki/oon Music/3240円
《ライヴ情報》
日時 2019年2月2日(土)17:30
会場 福岡サンパレス ホテル&ホール
料金 全席指定6500円
発売中 チケットぴあ/ローソンチケット/イープラス
問合せ TSUKUSU 092-771-9009
ライヴ情報など詳細はオフィシャルHPをチェック!
GosTV http://www.gospellers.tv
Gostudio http://www.5studio.net