これからの博多の文化を世界に広げる博多の“匠対談”
博多一幸舎の 店主・吉村 幸助が 博多の文化について 真剣に考える
〔第一回〕博多ラーメン職人×博多人形師
「業種は違えど、生き方や人となりが味に反映されるラーメンに共感を覚えます」
松尾 吉将
「採色や筆入れなど繊細なつくりこみはラーメンにも通じるものがありますね」
吉村 幸助
自ら動き進めることで
伝統に新たな新風を入れる
吉村
「一幸舎」の1号店を大名に出店して15年が経ちますが、社員みんなで博多の歴史や文化を勉強しているんです。ラーメンの職人たちが博多の知識を深めることで、博多のことを語れるようになり、ラーメンを通して博多の文化を広めていくことができる。その結果、博多の街にも恩返しができると考え、実はスタッフと「福岡検定」を受けたりしているんです。
松尾
僕にとってラーメンは、家族との思い出の味。小学生の頃、鳥栖にあるラーメン屋が好きで、家族で出かけていたんです。小学校の卒業文集に「将来は、博多人形師とラーメン屋になりたい」って書いたんですよ。
吉村
すごい! 博多人形師の夢を叶えたんですね。そういえば、伝統工芸の世界では何をもって一人前と認められるとかありますか? ラーメンの世界では「どこまで腕を磨けば一人前」という決まりがないんです。
松尾
何をもって一人前かと聞かれると博多人形師の世界でも難しいのですが、僕も2015年に取得した「伝統工芸士」という資格は存在します。ただ、工芸士になったからといって自分が一人前だとは思いません。しかし、先輩方の中には誰もが暗黙のうちに認める名人はいると思います。
吉村
僕は今42歳ですが、昔はどの家庭にも博多人形があったように思います。昔の家は床の間があり、そこに博多人形や掛け軸などを飾る場所がありました。時代とともに家の生活様式が変わったことで何か変化はありましたか?
松尾
旧来のやり方にとらわれず、どうやったら博多人形に触れた経験が少ない若い世代の人たちに知ってもらえるだろう? と考え、少し前に福岡の文具・雑貨メーカー「ハイタイド」とコラボをしてムーミンの博多人形をつくりました。福岡出身のアーティスト・KYNEさんとコラボしてつくった博多人形も大変好評で。ちょうど今、城島瓦の材料を使って新しい商品開発ができないかと相談を受けているんです。城島瓦っていぶし銀がカッコよくて、人形じゃなくても新しいことに挑戦したいと思っています。
吉村
伝統を守りつつも間口を広げていくって大事ですよね。
時代の変化に躊躇せず積極的に関わっていく
松尾
インスタグラムを見ていると、私が制作したムーミンの博多人形をマリメッコのテキスタイルを背景に飾るなど、ディスプレイの仕方が面白くて刺激を受けています。一方でオークションサイトでは、昔の名工がつくった立派な博多人形が二束三文で売られている現実があり、時代に合った提案も必要だと感じています。
吉村
切り口や伝え方って、時代によって変えないといけない部分があると僕も実感しています。ところで、博多人形師を目指したいという人は結構いるんですか?
松尾
「博多人形師育成塾」の講師を昨年から担当しているのですが、人形師に直接弟子入りする人も含め、希望者は多いんです。でも、自分の力で食べていける人は少なくて。兼業しながら人形師をしている人が出てきたと知った時は「こういう時代になったのかな」と驚きました。
吉村
博多人形の伝統的で繊細なつくりこみは大事にしつつも、他業種とコラボして今の時代にあった博多人形をつくり、発信していくことが、博多人形を後世に残していくために必要なんですね。
松尾
一幸舎はこれからどんなことをやっていきたいんですか?
吉村
一幸舎は2011年から海外に店舗を構えるようになり、僕自身、様々な国の街を歩いて思うことは、チャイナタウンはあっても「日本人街」はまだまだ少ないなぁと感じていて。一幸舎の目標としては、博多とんこつラーメンを発信するだけでなく博多そのものの文化に触れられる「リトルハカタ」や「博多村」をつくりたいと思っているんです。
松尾
面白そうなプロジェクトですね!
吉村
博多村という1つの空間に博多の様々な食と博多の伝統工芸を組み合わせることで、何か新しいものが生まれそうだとワクワクしているんです。
松尾
関東の飲食店でも「博多」という言葉を見かけることが増えたように感じます。まさに注目度の高い表れですね。
吉村
自分の腕を磨き続けるのは人形師もラーメン屋も同じ。共にがんばりましょう!
博多人形師
松尾吉将さん
大野城市生まれの45歳。父である故・松尾 文夫氏に師事し様々な展覧会で受賞。2015年、博多人形の世界では12年ぶりに伝統工芸士の認定を受けた。博多人形界を担うホープとして注目されている。
博多一幸舎 店主
吉村 幸助さん
福岡市生まれの42歳。2004年に、博多一幸舎を創業。小料理屋を営む母親の料理を食べて育ってきたせいか、子どもの頃から料理が好きでよくつくっていた。趣味は「味の研究」と根っからの職人気質。
本来、博多人形は細かい採色が特長的だった。色数も多く細かい柄を本物のように描き込んでいくのが伝統的な博多人形として見られている。
しかし最近の松尾さんは「このやり方だと生活空間に合わないかなと考え、博多人形の良さや“らしさ”をいかにシンプルに打ち出すか、チャレンジしているんです」と話す