あの人の人生履歴書|イラストレーター/漫画家/ブロガー 山田全自動 [3組目]
自分の”好き”や”得意かも”を見つめ直し、
「頑張りすぎない」で開いた夢への扉。
イラストレーター/漫画家/ブロガー 山田全自動
’16年より「山田全自動」としてイラストのSNS投稿をスタート。’23年9月時点で、X(旧Twitter)は約18.3万人、インスタグラムは約108万人のフォロワーを抱える。ブログ「山田全自動のあるある日記」は月間1000万PVを達成。思わず共感してしまう浮世絵調のあるあるネタで人気を博している。書籍は「山田全自動の落語でござる」、「山田全自動でござる」など発売中。
社会に出て気づいた、実は人見知りだった自分
なにかで結果を出したい時に全力で向き合う。一見、当然のことだけど、方向転換や全力からの”脱力”で状況が好転していったのが、親しみやすいあるあるネタのSNS投稿で人気を博す山田全自動さんだ。
「本業としてはウェブ系の仕事をしているんですが、最初に就職したのは『洋服の青山』で、接客担当でした。就職活動している頃はなぜか接客が得意だと思っていたんですが、入社してから人見知りだと気づいて(笑)。向いていないと感じ、16歳の頃からホームページを作ったりしてネットが得意だったので、ITベンチャーに転職しました。そこではウェブデザインの仕事が上手くいって、個人としても引き受けていたりした仕事がどんどん忙しくなっていって、27歳で独立したんです」。
その後、ウェブでアフィリエイトの収入が安定的に入るようになった山田さんが次に着手したのは、個人ブログ「Y氏は暇人」だ。’10年代初頭からオウンドメディアが盛り上がり始めたこともあり、ガジェットの情報やウェブビジネスのハウツーネタを投稿し始める。そしてある日、街歩きやローカルネタが元々好きだったこともあり、気軽に書いてみた大名の路地に関する記事が大きな反響を呼ぶ。
「大名で気になった路地について古地図を参考に比較・検証してみる記事だったんですが、 とても評判が良くて、テレビの取材が来たりしたんです。地道な作業はまったく苦にならないし、僕もこっちの方が書いていて楽しい。皆さんにも喜んでもらえると思って、昔懐かしい福岡の情報を発信する内容にシフトしていきました。古いものはちゃんとしていないというか、どこか今にない粗さやユルさがあって、その雰囲気が好きなんです」。
一度は諦めた漫画家への道。自暴自棄になって大逆転…!?
マニアックな福岡情報を発信する”Y氏”としてもすでに知名度を高めていた山田さんは、今も続く「山田全自動」としてのイラストネタ投稿を33歳でスタート。ここでも山田さんの信条である「コツコツと」が花を咲かせることとなる。
「”全自動”という名前は、今泉の三角公園に石碑がある福岡出身の歌人・吉岡禅寺洞から拝借しました。ブログを始めた頃からウェブの仕事でもペンタブでイラストを少し描いたりしていたので、もっとちゃんと練習したくて一日一枚イラストをSNSでアップし始めたんです。芸人さんとかでたまにあるような『この笑いがわからないのは、君のセンスがないから』みたいな方向性の内容はやらない、人に優しくやろうというのは結構意識していました。ただ、僕は昔から漫画家に憧れがあって、ずっとイラストというのが少しコンプレックスのような気持ちもあったんです。あまり人には言っていないんですけど、実は出版社への漫画の持ち込みもしていましたから」。
イラストのSNS投稿を続けながら始めた出版社への漫画の持ち込みは、どれも空振り。昨夏には「漫画はもう諦めよう」と決意したが、徐々にSNS投稿も嫌になっていたという。「もうテキトーでいいや」と半ばヤケになって、誰にイラストを描き始めることでまた思わぬ転機が…。
「自分的には雑に描いてみたら、逆に反応が良くなったんですよ。多分、それまで気合を入れすぎていたんだと思うんです。まあ、『気合い入れてあのクオリティかよ』って思われちゃいそうですけど(笑)。そうこうしていたら、不思議と漫画雑誌の『コミック乱』での連載が決まりました。しかも、向こうからのオファーです。40歳で商業誌デビューできるとは思いもしませんでした。気合入れすぎるのもちょっとダメなのかなっていうのは、凄く勉強になりましたね。頑張りすぎると自分らしさが死んじゃうみたいで。自分では『面白くないかな』と思った自信のなかった回が編集の方には『面白い』と言ってもらえたり、自分の思惑と一致しないのは学びになっています。基本的に、僕は脱力した時に物事が上手くいっていますね」。
SNSに限らず、一歩踏み出したり、チャレンジしようとする時は誰しもエネルギーが必要なもの。そんな人たちにとって、山田全自動さんの経験やマインドはなにかヒントになるかもしれない。
「自分がダメだと思っていたものが人から評価されたり、誰でも知っているだろうといったことが称賛されたりするので、なんでも結構気楽に始めてみていいんじゃないかと思います。あと、毎日同じベースで続けられるものがいいですね。『これだったら自分は毎日できるかな』ってものが誰でもきっとあると思うので、自分が楽にできるもの、自然とやっていることを見つけることが大事かなと思います」。