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【福岡ラーメン物語 のぼせもん|51杯目 博多川端 どさんこ 本店】

元気がなかったお客さんが笑顔で帰っていく。そんなお店でありたいと思っています。」

豚骨ばかりの博多の街で、味噌ラーメンを作り続けて半世紀。最初は見向きもされなかった味が、今では博多の人に欠かせないものとなった。札幌の味から博多の味へ。どさんこの味噌ラーメンは、博多のソウルフードだ。

 


博多川端 どさんこ 店主

岩永太郎 / Taro Iwanaga

1971年、福岡県福岡市生まれ。学生時代はバーテンダーとしてコンテストに入賞。卒業後ははアパレル業界で活躍するも、30歳の時にラーメンの世界へ。2016年には博多駅にも出店し、2021年に3店舗目を天神に出店予定


ラーメンには様々な種類がある。醤油、味噌、塩、豚骨などのスープに、太麺、細麺、縮れ麺をどう合わせるかで味が決まる。作り手の数だけ味があるのがラーメンの面白さ。無限の組み合わせの中から、一杯のラーメンは生み出されていくのだ。

「特製みそラーメン」(700円)/良質な豚骨と丸鶏のスープに、地元野菜の旨味が加わった自家製味噌ダレ。中華鍋でしっかりと熱を入れて合わせることで味に深みが増す。地元の進村製麺所に特注した縮れ麺との相性も抜群だ

今でこそ福岡でもあらゆるラーメンを食べることが出来るが、かつて福岡ではラーメンといえば豚骨ラーメンのことだった。醤油ラーメンや味噌ラーメンは「邪道」だった。

櫛田神社にほど近い川端商店街で、地元の人に長年愛される「どさんこ」が創業したのは、今から半世紀も前の1970年のこと。豚骨ばかりの博多の街で、味噌ラーメンを看板メニューに据えた草分け的存在の老舗だ。

「開業した頃は博多に味噌ラーメンなんてなかったですから、なかなか馴染んで貰えず苦労したようです。新幹線が博多まで開通して、県外の人が来るようになってから少しずつ流行るようになっていったそうです」。

どんな時代でも美味しいと言ってもらうために、世の中の嗜好の変化に合わせて、これまで味噌ダレは2度味を変えている。もう一つの美味しさの秘密は中華鍋を使って作ること。しっかりと熱を入れたスープは味の深みが増していつまでも熱々だ

二代目店主の岩永太郎さんは、どさんこが開業した翌年に生まれた。当時岡山までだった新幹線が博多まで開通したのは、どさんこ開業から5年後の1975年のことだ。

学生時代はバーテンダーを目指して、中洲のバーでアルバイトをし、カクテルコンテストでも入賞を果たした。大学卒業後はアバレルに就職して、社内でブランドも立ち上げた。

順風満帆、アパレルが天職だと思い始めていた30歳の時、父親が大病を患った。母親からも戻ってきて欲しいと言われた。岩永さんは迷うことなく仕事を辞めて家業を継ぎ、ラーメン屋になることを決めた。

 

「まったく異なる世界ではありますが、お客様を笑顔にする「ヒューマンビジネス」という意味では、洋服屋もラーメン屋も同じだなと思ったんです」

学生時代から店の手伝いはしていたので、ラーメンを作ることは出来た。しかし常連客たちの舌は厳しかった。

「「美味しくないから残す」と言って帰られるんですよ。やはり見様見真似でしかないので、作れるだけでは駄目。美味しいと言って頂けるまでに5年はかかりましたかね。開業した頃からの常連さんや、二代三代と通って下さる方も多くて、お客様に育てられ支えられているなと感じます」。

「皿うどん」(700円)/豚肉と野菜、そしてもっちりとした麺を合わせた皿うどんも、どさんこの名物メニュー。絶妙な火加減によって素材の食感もしっかりと残しつつ、麺と一体感を持たせる職人技

先代の父は見て覚えろという昔ながらの職人気質。技術を盗みながら、研究を重ねて自分なりの工夫を凝らした。「どさんこ」を愛してくれているお客さんに、これからもずっと美味しいと思ってもらえるように。

「やきめし」(600円)/リズミカルに中華鍋を振って作る焼き飯は、しっとりバラバラの理想型。ニンジンやタマネギ、ネギなどの野菜とカマボコ、卵と具材も色とりどりで食感のコントラストも楽しめる

「時代や味覚も変わっているので、昔と同じままでは美味しいと言ってもらえないんですよ。だからもっと美味しくなるように、進化していかないといけません。気づかないような「1mmのこだわり」を大事にしたい。それはきっとお客様に届くと思っています」。

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■取材を終えて

美味しい音が聞こえる老舗の味

この店に来て誰もが目を奪われるのは、店主岩永さんの踊るような鍋振りでしょう。ラーメン、焼き飯、皿うどんと、どのメニューでも使われる中華鍋。どさんこの店内には、いつも「美味しい音」が響いています。舌はもちろん目でも耳でも美味しさが伝わってくる、五感に訴えてくるのがどさんこの味なのです。お店に伺うと、アルバイトをはじめとするスタッフの爽やかな笑顔と挨拶にいつも癒されます。「人と人との付き合いが大事なので、スタッフには挨拶をしっかりするよう話しています」と語る岩永さん。10年続く店は1割と言われるほど厳しい飲食業界で、半世紀ものあいだ人気を保ち続けているのも納得です。

ラーメン評論家

山路力也 / Rikiya Yamaji

テレビ・雑誌・ウェブなど様々な 媒体で情報発信するかたわら、 ラーメン店のプロデュースなど、 その活動は多岐にわたる。「福岡ラーメン通信」でも情報発信中


掲載の内容は取材時のものです。取材日と記事公開日は異なる場合があり、メニューや価格、営業時間、定休日など取材時と異なる場合がありますので、事前に公式HPやお問い合わせにてご確認をお願いします。

博多川端どさんこ本店

【所】福岡市博多区上川端町4-229
【☎】092-271-5255
【営】11:15~19:55(日曜~19:00)
【休】火曜、不定
【席】32席
【P】なし
カード/不可

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