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【インタビュー】心にグッサリ刺さる傑作!『彼女がその名を知らない鳥たち』白石和彌監督

“傑作を観てしまった!”と担当が大興奮した映画『彼女がその名を知らない鳥たち』

数々の俳優、監督に取材してきていますが、白石監督のインタビューでは、思わずグググと前のめり。

監督に「オレ、ほめ殺しされてるんじゃないか?」と疑念を抱かれても仕方ないくらいのインタビュアーの熱さと絶賛ぶりに、ついつい会話は“観てない人には言えないけれど、観た人にはぜひ伝えたい、かなり深い話”にまで至り、《シティ情報Fukuoka》掲載のインタビューは、ネタバレしないところだけを注意深く抽出したバージョンです。

なので、これから先は観た人だけが読んでください。観てない人は読まないで。

上映終わってからこのページにいきついた人も、DVDででも観て欲しいから、観るまでは、やっぱり読まないで!

あ…原作を読んだ人は、ぜひどうぞ!

<STORY>
十和子(蒼井優)は同棲している年の離れた陣治(阿部サダヲ)の稼ぎをあてに、無為な日々を怠惰に過ごしていた。食事の準備すら仕事から帰ってきた陣治に頼りきり、そのくせ彼への不快感を露にしつつ、かつての恋人・黒崎(竹野内豊)との思い出に浸り、クレームを入れたデパートの主任・水島(松坂桃李)との不倫にのめり込む。ある時、訪ねてきた刑事(赤堀雅秋)から黒崎が5年前から行方不明だと告げられ、時を同じくして水島の周りにも不審な出来事が起こる。陣治への疑惑を深めていった十和子は…。

©2017映画「彼女がその名を知らない鳥たち」製作委員会

『彼女がその名を知らない鳥たち』はTジョイ・博多他にて絶賛上映中!
公式HP http://kanotori.com/

 

以下、絶賛ネタバレのインタビューですっっっ!


―原作は「イヤミス」と呼ばれる小説ですが、監督は原作を読んでどう感じられましたか?

白石:読んでいる間はただひたすらしんどかったです。なんでこれ読んでんだろう?って(笑)。


―映画を観終わった感じは全然イヤじゃなかったです。もう1回観たら絶対泣く!と思いました。
白石:2回目がヤバイって言われます。映画も原作のテイストに近いですよ。嫌な気持ちがするし、しかも最後はどこへ行くのかもわからない。何なんだろう?って思ってて、最後の1~2ページで色々わかった時に、それまで嫌だったことがすべて、美しく愛おしく思えるんですね。読み終わった後はなんとも言えない感じになりました。


―最後にいろんな感情がないまぜになって、心に突き刺さったままです。
白石:処理できないでしょ(笑)? 心が揺さぶられるんです。


―監督が撮られた『凶悪』も、ずっと胸に突き刺さって、なかなか取れない映画でしたが、今回も、すごい映画を見せていただきました。沼田まほかるさん原作の映画化は『ユリゴコロ』もですが、イヤミスというより、崇高な愛の物語ですね。フェリーニの『道』を思い出しました。
白石:ありがとうございます。『道』は初めて言われましたね。


―映画も、あの印象がガラリと変わるところがスゴイです。傑作です。俳優さんたちの演技も完璧で、その完璧な演技を引き出された監督が、これまたスゴイと思いました!!


白石:いや~、あれはキャスティングがパーフェクトでした。蒼井優さんはすごいです。黒崎に会う時、黒崎は君のこと一生大切にするって言う。その黒崎の言葉を受けている時の顔が、ナイフで刺す顔のようにも菩薩のようにも見えるんです。なんか慈愛があるんですね。そんなことあるの!?って思いました。もしあれを僕が指示したら頭おかしいって思われちゃう。だから、ああなっちゃうと僕の演出なんて、たかが知れてるんですよ。


―キャスティングに監督の希望はどのくらい入れましたか?

白石:蒼井優ちゃんは第一希望でした。脚本を書く前から。ちょうど30歳くらいで、これから30代に入って女優としてまたひと回り大きくなるに決まってる人じゃないですか。そのターニングポイントにこの映画絶対なるんじゃないかなって。


―きっとなりますね。映画賞も狙えるんじゃないでしょうか。

白石:愚かな女の話なんだけど、これだけ魅力的に見せて、意外と嫌な気がしないってすごい人です。


―蒼井優さんとは役についてどんな話をしました?
白石:十和子は嫌な女だけど、僕達からそんなに遠い存在じゃない。クレーマーだけど、クレームを入れて自分のバランスを取っている人なんです。1コ1コのことが、見たことのあることだったり、特別な人じゃない、みたいな話をしました。


―大阪弁もお上手でした。

白石:大阪キャンペーンやってきたんですけど、大阪の記者の方たちが「ボクたち、大阪弁が変だったら一気に冷めちゃうんだけど、これは大丈夫です」って言っていただけました。


―阿部サダヲさんも素晴らしかったです。
白石:うどんのシーンは、陣治一から作るところから撮ってるんですよ。作って運ぶんだけど、陣治は丼に指つっこんじゃったりする。十和子は文句言いながらも、ざざざざーって机の上の者を腕で除けてうどんを食べる。苦しいところも、最後にひっくり返ることを僕は知っていたから、うどんを作るところを撮っているときから、なんていいシーンを撮っているんだろうって思ってました。ひたすら美しいんです。


―薄っぺらい男を演じる松坂桃李さんも…!
白石:松坂桃李さんは素晴らしいです。彼はとても頭のいい役者です。役者って台本に書いてある自分の役柄が何を考えているかを考えるのは当たり前のことで、むしろそれしか考えないのは三流なんです。脚本の中で自分の役がどういう役回りなのか大きな歯車の中での位置をちゃんと把握して実践できるのがプロなんです。彼は本当にプロです。

―あの坂道で刺されるシーンの松坂さんがもう、素晴らしく薄っぺらい!
白石:蓄積があっての坂道のシーンだったので、蒼井優ちゃんは「監督、いつでも刺せます!どのタイミイングでも行けます!」って(笑)。楽しかったです。


―楽しかった…!すごいテンションですね。 竹野内さんも斬新です。真面目な竹野内さんなのにあの役! 今回は各俳優さんのイメージを裏切るキャスティングです。
白石:その方が撮ってる僕らも楽しいですし、何より「その役でボクなんだ!? 」って思えた方が役者も絶対楽しいはずなんですよ。同じような役を毎回もらっても面白くないですしね。あれ?こんな役オレんとこ来た!白石監督、何考えてるんだろ?まず会って話してみようって(笑)。なんで僕だったんですか?ってことから出発した方が、そりゃ生き生きしますよね? ある意味、演出の何パーセントかはその時点で終わってるんですね。


―小説を映像に組み替えるにあたり難しかった点はありました?

白石:過去を引きずってる話って実は映画にそんなに向いてないんですね。もうちょっと突っ込んで言うと、「十和子が記憶を失ってる問題」というのは、物語にとって作為でしかないけど、それをお客さんに気づかせないように撮るのは、難しいと言えば難しいんです。ふつう映画は誰かに感情移入して、誰かの目線で観始めるのですか、十和子はいきなりクレーマーで感情移入はできない。陣治は不潔だし。水島も、クレーム処理で来ているのに、ああいうことになっちゃうから(笑)。原作の感じを大事にしていたというところが、途中から、映画どこに行くんだろう?ってあれ?って思い始めた時にミステリーが始まり、「陣治がやっちゃったんだ!」って、思ったくらいの時に、十和子のことがかわいそうになってるはずなんですよ。そこから十和子の目線で観ていただけたらな~と。


―みごとにそう、作られていました!!
白石:原作は黒崎の記憶と陣治との過去の記憶がシャッフルされていて、混乱している感じなんです。小説だからできるけれど、映画ではなかなか難しいので、陣治と十和子の記憶は走馬灯のように2人が同じものを見る。若干構成としては反則なのですが、そうしました。


―観客も一緒に走馬灯を観んですね。もう1回観よう!って思いました。電話から海辺に繋がるシーンも面白かったです。
白石:過去の話をどうみせるか。十和子にとっては地続きなんです。冒頭から「黒崎さんに会ってるんでしょう?」とか、黒崎にもらったピアスを探したりとか、黒崎は不在だけれど映画の“引っぱり”になっていたんですね。不在者でありながら。ただ映像を差し込むだけじゃ色気がないな、と思って、現代の十和子が過去に歩いて行きたかったんですよ。地続きであることをちゃんと映像化したかったんです。その逆算のアイデアだったんですけど。壁を作って海辺に持っていって。十和子が歩いていかなきゃいけないから、壁を倒したら、みんなでズズ、ズズッって引っ張ってずらして。大変でした(笑)。


―いかに映像で見せていくかを考えるのって醍醐味でしょうね。
白石:下手すると失敗する可能性もあるので、さじ加減がけっこう大変です。水島の砂漠の話を聞いている十和子が砂に触れるのも、皮膚感覚で水島の話を理解して、話を飲み込めることを表したかったんです。


―本当に皮膚感覚って大事なので、十和子がそれを信じるのが理解できました。ところで原作を読まれて、映画化したいと思ったポイントは?
白石:景色が変わったことですね。汚いものがきれいに見えたこと。読み終わった直後は、別のラストがあるんじゃないかって、しばらく考えたんですよ。でも1日たち、3日たち、本をパラパラめくったりしていたら、まほかる先生のやろうとしていたことが府に落ちて、やっぱりこれしかないんだろうなって。僕の理解できない“とまどい”だったんですが、映画としては悪くはないというか、ちゃんとした余韻になるだろうなって。その段階ではもう抜け出せなくなっていました。僕自身が。

陣治が殺人を告白するじゃないですか。あの時、「もう終わりやなっ。当たり前や、もう終わりや!」って、クライマックスなはずなのに。その後に、「わかったわかった、肉食おう」って(笑)。若干狂っているじゃないですか。しかも十和子も美味しいって食べている(笑)。あそこがこの映画の白眉のシーンだと思います。陣治としては根本的なところにまだ十和子が気づいてなければ、まだもしかしたら可能性はあるんじゃないかって思ってる。たぶん今までもそうしてきたんでしょうね。ケンカしてもどっちが謝るわけじゃなく一緒に飯とか食って。その感じがすごく2人を表していると思います。


―そしてラストで、ああ、タイトルの意味って、コレだったんだ~!って。
白石:原作では数羽だったんですけど…。このタイトルなんなんだろう?ってずっと考えていて、「彼女」=十和子で、「知らない鳥」=陣治の愛なんだろうなって、思ったら、数羽じゃないなって。


―あの映像を撮るのは大変じゃなかったですか?
白石:あれムクドリなんです。高槻の市役所前にムクドリが大量発生しているというのを聞きつけて撮影しに行きました。


―原作を読まずにこの映画を観たのですが、本当に十二分に感動したので、原作を読んでいない人は、読まずに映画を観てほしいな、と思いました。
白石:原作読んでいる方も映画を観て喜んでくれました。僕が原作を大好きだってことはわかってもらえました(笑)。

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