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【インタビュー】映画『窮鼠はチーズの夢を見る』行定勲監督…「今作の2人が一瞬でも真剣に悩んで向き合ったんだということが伝わればいい」

キーワードのように「多様性」が語られる昨今、数々の恋愛映画を手掛けてきた行定勲監督が、男性同士の恋愛をテーマにしたコミックの映画化に着手しました。そこで描かれているのは、2人の純粋なラブストーリー。ただ、“男同士である”という事実がそれを特別な物語にしています。
揺れ動く2人の男性の複雑な慕情を体当たりで表現したのは、大倉忠義と成田凌。絡み合う男性同士の恋愛劇を丁寧に映し出した行定監督に話を聞きました。

 

■行為の前後で2人の態度が変わる。直後の朝のシーン、
僕はあそこが一番撮りたかったぐらいなんです

 

――人間愛を感じる作品ですが、どこに焦点を当てて作品を撮ろうと思われましたか?

行定 BL(ボーイズ・ラブ)だと言われて原作を読んだんですけど、ちっともBLだと思わなかったんですね。LGBTQやBLにカテゴライズされる作品なら、自分にできるかなぁと思ってたんですけど、僕は読んでラブストーリーだと受け止めて。LGBTQをテーマにすると、大概が社会における彼らの生きづらさに焦点が当てられがちなんですよ。そういう時代でもないし、もっとリベラルに人間を見たほうがよくて、人が人に影響を与えたり好きだという気持ちは社会の弊害を乗り越えられる最大の要素だと思うし、社会の弊害より恋愛の方が重たくて、時には死にたくなるほどだと思うんです。生きていく上で恋愛はないがしろにできないテーマで、男同士であるが故に余計にその愛の形というか、向き合わなければいけない大切なものが見えた気がしました。

 

――そういった感覚は俳優陣とも共有しなければ、今回のような作品にはならないですよね。

行定 男だとか女だとか、そこに対して分け隔てない考えを今作の俳優たちは持っているし、自分たちのセクシュアリティとしては2人とも異性愛者ですけど、同性愛者に対して分け隔てなく付き合いをしてると思います。成田凌においては、ゲイの役ですから独特なものがあるんですが、気持ち的にもフェミニンな印象に見えてくるんです。その中性さ加減をやろうと思ってやっているんではなくて、自然とそういう気持ちになる。あえてそういう演出をしているわけではないんですよ。

 

――心情の変化を繊細に表現していく大倉さんの演技も印象的でした。

行定 基本は丸腰だったと思いますよ。対峙する人たちに翻弄されていくことが大事だった気がするんですが、そもそも大倉本人がちょっとわかりにくい人間なんです。奥底になにかを持っているけど言わない、みたいな。脚本家は最初から彼を想像して脚本を書いたそうなんですけど、原作とはちょっと違うけど彼のようにミステリアスな部分を持っていたほうが、人って知りたいと思って惹かれるんじゃないかなと。恭一もミステリアスな人間ですから。人間が演じるという意味では、大倉忠義が持ち合わせているものがリアリティを生んでいると思います。

 

――大胆なセックスシーンについてですが、性描写は細かい段取りのもと撮影されたそうですね。

行定 今作において男性同士のセックスを描かないという選択肢はないですから、恋愛のプロセスを丁寧に撮ることが、男同士が結びつくことの可能性があるという理解に繋がるかなと。セックス描写がないと少し違う見え方になっていくかなと思ったんです。行為の前後で2人の態度が変わってきますよね。直後の朝のシーンがあるんですけど、僕はあそこが一番描きたかったぐらいなんですよ。他人行儀に2人とも素っ裸でいるんだけど、戸惑いもありながら、同性の愛のあり方に向き合っている入り口になるといいなと考えていて。あのシーンはなんか好きなんですよね。部屋の間取りもあのシーンをもとに作っていきましたから。どこにどう光が入ってくるか、ベッドと台所の位置関係、椅子がどこに置かれているか、そういうものが全て重要だったんです。

 

――多様性やセクシュアリティについて論じられる機会が増えている中で、気づきや発見も与えてくれる作品だと思います。監督は今回の映画を通して得た気づきなどはありますか?

行定 あまりそういった特別な気持ちはなかったんですよ。これまで恋愛映画を撮り続けてきましたけど、その延長上にあるものだったんですね。これまでの作品は僕個人が非常に心に刺さったり、深く理解できる部分というのが中心だった気がするんですが、今回の場合は思いもしなかったことが自分に起きて、でもそれが居心地が悪いわけではなく、身を任せた時に恋愛感情みたいなものが本当に生まれるのかどうか、役者と一緒に追体験しているような感覚だったんです。僕は大倉と同じ気持ちで常にいたと思うんですけど、成田凌の芝居に男の可愛らしさみたいなものが見てとれたりすると、寄り添う感情みたいなものが明確に見えるんですよ。簡単に言うと「男同士っていいもんだな」という感情が生まれる。例えば、温泉に男同士で行ったことがあるんです。露天風呂で長風呂を一緒にして、面白い話をずっと喋ったりして結構忘れがたい瞬間だったりしたんですが、そこは男女の違いなんですよ。同性である優位性が実はあるんだなと。ひょっとして男同士ってアリなのかという錯覚すら生まれてくる。セクシュアリティってどうやって生まれるんだろうとは考えましたし、きっかけによっては違う感情が芽生えてくることもある。そういうものって未知だなと感じたりもしました。

 

――同性同士の恋愛を描くにあたって、LGBTQの方に話を聞かれたりもされましたか?

行定 しました。心情みたいなものは男女の関係となにも変わらないということなので、どちらかと言うと俗っぽいことを聞いたりしました。凄く面白いのは、彼氏の写真を見せてもらったりしたんですけど、後ろ姿がそっくりなんですよ。好む相手は自分と近しい人間なのかなと。今作でもそれは採用させてもらいました。あと、セクシャルマイノリティだから出会いは圧倒的に少ないんですね。男同士のマッチングアプリもあって、僕もやってみたんですよ。なかなかね、写真入れていても反応が弱い。モテなかったですよ(笑)。ガタイのいい助監督の方が凄くアプローチが多くて、結構ショックを受けました。そういうことをやりながら、なんら変わらないし、彼らの恋バナ聞いているだけで幸せになるし。今日の若者なら違和感なくこの作品を観ると思うし、作品がR15+指定で高校生から観られると言うのは凄くいいことだなと。今作の2人が一瞬でも真剣に悩んで向き合ったんだということが伝わればいいなと思います。

 

●行定勲
’68年生まれ。熊本県出身。『GO』(’01)で第25回アカデミー賞最優秀監督賞をはじめ数々の賞に輝き、一躍脚光を集める。『世界の中心で、愛をさけぶ』(’04)は興行収入85億円の大ヒットを記録し、社会現象となった。その後、『北の零年』(’05)、『パレード』(’10)、『ピンクとグレー』(’16)、『うつくしいひと』(’16)、『ナラタージュ』(’17)、『リバーズ・エッジ』(’18)などを発表。7月に又吉直樹原作の『劇場』を発表したばかり。

 

■映画『窮鼠はチーズの夢を見る』上映中

 

 

 

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